2017年11月 7日 (火)

イノシシと共存遠く

   岩国市   会 員   片山清勝

 散歩中、イノシシが防獣ネットの外周りを掘り起こし、土中の餌を探した跡が長く続いている畑で、農作業中の人と話した。
 どこの畑にも防獣ネットは張ってある。それでも入り込み、農作物を荒し、畑を掘り返す。最近は人を恐れないのもおり、安心して仕事ができずに困っているそうだ。
 あの大きな体を維持する餌の量は半端ではなかろう。雑食性だから餌選びはしないだろうが、山から危険を冒して麓まで下りてくる、生きることの大変さは人も動物も変わりはない。
 ある日の夜明け前の散歩中、道沿いの畑から数頭のうり坊を連れた大きなイノシシに出くわしたことがある。
 子に合わせてゆっくりだが堂々とした歩みで道を横切り、山中に続くけもの道を上る姿を見送った。 人の親と同じく、子を思う優しい姿が強く印象に残っている。
 ちょっと、イノシシ寄りの心情になったが、荒らされた畑の様子を見ると共存の夢は遠い。

    (2017.11.07 中国新聞「広場」掲載)

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2017年10月16日 (月)

やったね88歳

      山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 市では時計が午後6時を指すと「ふるさと」のメロディーが流れる。聞きながら愛媛に1人で暮らす父に思いをはせる。
 耳が遠くなり電話で父の声を聞くことができないので帰省した。10年くらい肺気腫を患っていたが、今では見違えるほど元気になりデイサービスに週3日通っていると弟が言う。お墓参りで、弟に手を引かれながらも一生懸命に坂道を上る姿を見てまだまだ元気と安心した。
 昨年の数え年での米寿のお祝いの席で「健康長寿」と力強く願いごとを書いた父がまもなく満88歳を迎える。
 

 父さん、誕生日おめでとう。
  (2017.10.16 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2017年10月14日 (土)

カーテンの洗濯

   岩国市   会 員   片山清勝 

 秋のよく晴れた日、我が家恒例作業の一つ、カーテンの洗濯をする。私の分担は、取り外しと洗濯後の取り付けの二つ。
 取り外しは、大した作業ではない。外した後でレールを水拭きする。
 洗濯を終えたそれは、水分を含み、取り外し時の倍くらいの重さと感じる。これをレールに取り付けるのは、両腕を上げた姿勢で行う。年々、骨が折れる作業と思う度合いが増す。
 現役の頃は家内1人でこの作業をしていたことになる。まあ、若かったが、大変だったろう。    
 気持ちよさそうに揺れるカーテンを見ながら、お茶を飲む。
    (2017.10.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2017年10月 9日 (月)

孝と不孝と

 岩国市  会 員   吉岡 賢一

  その朝は、ちゃぶ台に卵が1個置かれていた。「これを飲んで滋養を付けて徒競走を頑張って」という家族の願いが込められた生卵である。台所では仕事を休んだ母が、運動会の弁当を手際よくこしらえている。
 「ヨーシ、今年こそはいいとこ見せよう」と気張ってはみるが、生来の鈍足。生卵のかいもなく孝行できないままに終わった。
 夢に描いた都会生活も俊足の兄に先を越された。夢を封印し同居を選んだ。父も母もこの手でお浄土へ送り届けお墓も仏壇も守っている。少しの孝と遠い昔の不幸が思い出される秋半ば。金木犀の香りが心潤す。
   (2017.10.09 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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メモで知識を充実化

     岩国市   会 員   片山清勝

 ある会の会報編集を年6回している。孫新聞は作り始めて17年だが、その作り方はいわゆる我流で通している。
  「伝わる文章力 広報紙の作り方のこつ」という興味を持たせる講座が公民館で開かれ、参加した。 広報に必要な文章の書き方、分かりやすいレイアウトなどの講義があった。
 文章は「分かりやすく、読者の気持ちを思って書くこと。もちろんミスは撲滅する」など、事例を交えての解説に納得した。
  「メモは言葉の引き出しを増やす」という言葉が心に残った。「これは」と気付けばメモする。書けないときはデジカメに撮っている。しかし、それはちょっとした覚書で、その存在を気にすることはなかった。
 今回の講座のレジュメにいくつか短いメモを残している。それがなければ、ポイントは思い出しづらいと気付いた。
 メモは知識の引き出しを充実させる。粗末にしてはつかんだものを逃してしまう。さて、次回からどう生かすか思案している。

     (2017.10.09 中国新聞「広場」掲載)

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2017年10月 4日 (水)

日々楽しむ友

   岩国市   会 員   林 治子

 百日草が生き生きと描かれた絵手紙が届いた。どなたから、と思わず差出人を確かめる。しかし、名前だけでは顔が浮かんでこない。
  「あなたの絵手紙を新聞で拝見しました。この頃、同窓会にはお出掛けではないのですね」。添え書きがあった。それで分かった。高校時代、仲が良かった友だちだ。
 声を聞きたくなった。急いで受話器を握り、電話をかける。呼び出し音が長い間続く。なかなか出てくれない。大きなお屋敷かも、と想像をたくましくしながら待つ。もう切ろうかと諦めかけた時、「もしもし」と細く優しい声がした。「あなたの絵手紙を偶然、新聞で見つけたのよ」から始まって、しばらく思い出話が続いた。
 今は1人暮らしで、24時間全部が自分の時間だという。 「お金も自由にたくさん使えれば、なおいいのだけど」 
 ふふふ、と笑って彼女は言葉を続ける。
  「1人で何でもするのよ。洗濯、掃除、買い物、料理。時間はかかるけれど、とても楽しいのよ」
 聞いていて、うらやましかった。―人で身の回りのことをこなす方は多いが、楽しんでしているとなると、どうだろう。嫌々、あるいは仕方なくしている人も少なくないのではなかろうか。
 日々、楽しんでいるなんて最高だ。見習わなくては。

       (2017.10.04 中国新聞「こだま」掲載)

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2017年9月30日 (土)

雀のお宿

      岩国市  会 員   上田 孝

 

 夜中にトイレに行った際、ドアを開け明かりをつけた途端、バサッと音がして目の前で小さな黒い物体が動いて消えた。15度ほど開いた窓と網戸のすき間を雀がねぐらにしていたらしい。昼間に糞を確認した。
 その後しばらく来ない日が続いた。数日後、暗がりのままそっとドアを開けると、いるいる。黒い小さな影が見える。この春に巣立った子雀で、安全なねぐらを見つける知恵もまだないのか。そっとドアを閉めて階下のトイレに行った。
 どんなヤツか、ちょっと顔を見てみたい気もするが、しばらくそっとしておいてやろう。

2017.09.30 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2017年9月29日 (金)

私もそうなりたい

    岩国市  会 員   安西 詩代
 

 夕方「はい、これ」と親しい中学生の彼女は小さなお菓子の袋を差し出した。「あら、どうしたの?」といった瞬間「敬老の日だ」と気がついた。カードには「長生きしてください」と可愛い字で書いてある。突然の老人デビューを娘に話すと「十分老人よ。自覚して感謝」。
 
 昨年来、白髪にしている。電車では若者がすぐに席を譲ってくれる。優しさがうれしい。
 
 老人になったからこそ生まれる美しさもある。それは外見的なものではなく人生の体験を通して培われた内面性の深さによる。そんな方はいつも「明日への希望」を持っている。
 
  (2017.09.29 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2017年9月26日 (火)

脱皮?

  

 岩国市  会 員   山本 一

 朝食の時の会話。「この食パンが一番うまいね」「そう」。妻は手作りパンを褒められてルンルン。
 在職中は「良いことも悪いことも正直に言う」「ウソは言わない、おべっかは使わない」ことに徹した。率直さは相手を傷つけるもろ刃の剣。当然、一部の上司とは摩擦が起きた。傷つく部下もいたであろう。相手の気持ちが分かり私自身もつらかった。
 退職後、気を張って人に対することはやめた。相手の良いところを積極的に褒めることにした。自分も、なんと気楽で気持ちが良いことか。少し後ろめたい気もしないではないが。
  (2017.09.26 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2017年9月25日 (月)

パパになる時

     岩国市  会 員   貝 良枝

 「僕のパパは、いつパパになったの?」。園児の突然の質問に驚かされる。気の利いた答えはないものか。私の脳はフル回転で言葉を探す。
 「それはね、○○ちゃんが生まれた時、小さくてピィピィ泣いていたから守ってやらなきゃと思ったの。その時、パパになったのよ」
 「ふ~ん」
 保育園では、ここで話が終わらない。「僕のパパは?」「私のは?」と続く。○○に子どもの名前やその兄弟の名前を入れて答えるとキャッキャッと喜ぶ。「じゃあ、パパになる前は何だったん?」「えっ?」
   (2017.09.25 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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