2012年5月25日 (金)

「ぬかよろこび」

    岩国市  会 員   貝 良枝

 

夫が電車の中で1万円くれる。「奈良……」と言ったが人の声に混ざってよく聞こえない。「こんなところでくれなくても」と思ったが、奈良へ遊びに行く軍資金、ありかたく財布に入れる。
 
 これまでも遊びに行く時は、時々補てんをしてくれた。これでお昼は刺し身御膳か。うふっ。
 
 乗り換え駅の切符売り場に立ったら「さっきの1万円使えよ」。「切符ぐらい1万円を使わなくても」と思うが、機嫌のいい私は言う通りに。切符を買って振り返ると、夫は財布を開けて手を出している。そういうことか。私の手には小さな切符が1枚残った。

2012.05.25 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

 

 

 

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2012年5月24日 (木)

講習前夜の深酒反省

   岩国市  会 員   山本 一

 いつも通り朝6時に起床して「しまった」と思った。二日酔い気味だったからだ。一瞬背筋が寒くなった。

 前日は44回目の結婚記念日。ついうっかりして晩酌をすごしてしまった。「飲み過ぎた翌日の午前中は車に乗らない」と決めているが、当日は自動車運転免許高齢者講習日。もともと運転は得意ではない。

 「よりによって飲み過ぎるとは」と自分を責める。万一を考えて徒歩で出掛けた。

 午前9時すぎに受け付け開始。「昨夜少し晩酌がすぎたのですが・・・」と言いかけたら、受付の方が「酒気帯び検査はありませんよ」。途端、「この時間なら大丈夫」との確信に変わった。

 座学、視力検査、運転適性診断と続いた。実技は正午を過ぎてからだったが、診断結果を渡されてびっくり。「同年代より、やや優れている」 

 駄目な自分を叱りながら出掛け、結果オーライで帰宅した。それにしても講習を忘れて飲みすぎるとはドジである。

   (2012.05.24中国新聞「広場」掲載)

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2012年5月17日 (木)

「突然のことで………」

    岩国市  会 員   横山 恵子

 

「何の親孝行もせんうちに逝ってしもうて」と悲痛な声で弟は父の手や頭をなでた。

412日、不慮の事故と聞き、急ぎ病院へ到着した時は臨終間近。なぜ? 茫然自失。

翌日、湯灌し、化粧してもらった父の穏やかな顔に、皆救われる思いがした。たった1週間前、ひ孫のために植樹しながら「成長するのを見たいもんじゃが……」と言っていたのに。

76歳まで働き、何事も全力投球。背中で生き様を見せてくれた。父さんには到底及ばないけど、恩に報いるよう生きていくよ。ありがとう!! 母さんのことは心配しないでね。 

 (2012.05.17 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2012年5月15日 (火)

「隠し昧」

        岩国市  会 員   吉岡 賢一

 

みそ汁に浮かぶ青い小さな葉っぱ、この季節ならではの味わいが朝から元気をくれる。

そんな木の芽どきになると、我が家流の岩国寿司が何度となく食卓を飾る。私の母から受け継いだ伝統の味は十分クリアしていると思うのに、さらにひと工夫。風味豊かな木の芽を寿司の表面に散りばめ、旬の味に仕立て上げる。この味は隣近所にも喜んでもらっている。時には寿司がタケノコに化ける。タケノコが木の芽あえに姿を変える。

何十年変わらず作り続けるかみさん。「うまいね」だけでいいのだろうか、と時々……。

(2012.05.15 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2012年5月11日 (金)

「首を洗って待つ蘭」

     岩国市  会 員   山本 


 「何と長持ちするねえ! ひょっとしたら丸一年咲いたままだったりして」と妻に言う。しばらくして妻が「葉脈が切れている。造花み
い」と。何ということだ。  

この蘭は昨年10月、妻が手作りパン屋を開店したお祝いに頂いたものだ。たくさん頂いた鉢植えの中でも、とりわけ長持ちする花だと度々話題にした。妻は毎日水やりをし、大切に育てた。届け主には年賀状で「まだ咲いています」と書いて出したとか。

真実が分かった途端、お払い箱では可哀そう。それに、何だかバツが悪い。今も、鉢植えの仲間の中で首を洗って鎮座。

  (2012.05.11 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

 

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「心のサプリ」今後も楽しみに

    岩国市  会 員   中村 美奈恵

 

日曜版に心療内科医の海原純子さんのコラム「心のサプリ」が復活したのがうれしい。以前、彼女の言葉に何度も救われたことがあり、今も切り抜きを保存している。
 34月はとても忙しかった。長男が大学卒業と就職に伴い転居し、三男は中学に入学した。仕事も忙しく、息が切れそうだった。そんなとき、ふと居間のピアノに向かおうという気になった。ほんの30分、一人きりで弾いたが、不思議なことに肩の荷がすうっと下りたような気がした。

手元にある切り抜きにこんな趣旨のことが書いてある。「人は誰でもパーソナルタイムがないとイライラしがちになる。一人の時間を持つと、自分の心と向き合えてほっとする。忙しい日が続いた後は、一人の時間も大切ですよ」

ピアノで自分を取り戻した私は、息子に穏やかに接することができた。大切なことに気付かせてくれたり、元気づけて前に進ませてくれる「心のサプリ」を今後も楽しみにしている。

2012.05.11 毎日新聞「みんなの広場」掲載)

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2012年4月27日 (金)

「一目惚れ」

   岩国市  会 員   山下 治子

 用事を済ませ、ついでにウインドーショッピング。足がピタッと止まった。他の商品が全く目に入らない。試着してみる……。似合う! 欲しい! 値段は? やっぱりネエ! 

 大いに迷った揚げ句、一晩たてば気が変わるかも、と高ぶる気持ちを抱えたまま帰った。翌朝は雨と風。出かけるなということか、とあきらめかけたら晴れてきた。ということは、買いに行けということだ。決まった!
 銀行に寄り、店長直々に値切り交渉したが、断固引かない。引けないのだ、と言う。それを聞いて、更にこの品に惚れた。大事にする。
 
  (2012.04.27 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2012年4月25日 (水)

おしゃれな食材づくり広がる

   岩国市   会 員   片山 清勝

 健康づくりを兼ねて自家用菜園を楽しむ人が多い。定年後に借地して野菜づくりを趣味で始めた知人もいる。近所のホームセンターには緑濃い多種類の苗が並び、トマトなども数種類ある。プランターは斬新な色や形で種類も多い。これらを買う人たちの年齢は意外に幅広い。

 その光景に終戦後の思い出が脳裏をよぎる。郵便局職員だった父は毎夕、母と連れだって畑仕事に出かけた。食糧難の時代、サツマイモやジャガイモ、大根、自菜、豆類などをたくさん栽培し、5人の子どもの空腹を満たした。私たちもよく手伝い、何でも食べたものだった。

 「地産地消」が言われる昨今、家庭やプランターの菜園は安心安全、そしてちょっとおしゃれな食材作りの場が広がっている。大小の差こそあれ、今後は「自作自消」の方向に進むのだろうか。

 
そんな思いを抱きながらピーマンとミニトマトの苗を購入し、早速植えた。種苗コーナーを訪れる人が途切れることはない。

  (2012.04.25 朝日新聞「声」掲載)

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2012年4月20日 (金)

「前払い」

       岩国市  会 員   安西 詩代

 

 明治生まれの母は、最期は認知症で私が週3回訪ねる度に「こんなによくしてもらうのに私はお金を持っていないので、あなたにお給金を払うことができないのよ。ごめんなさいね」と申し訳なさそうに謝る。「大丈夫ですよ! 前払いでたくさん頂いていますで、ご心配なく」「そうですか。それならよいのですが」という会話をしていた。

 いつからか「娘」から「よくしてくれるお手伝いさん」に変わった私は、母がいとおしかった。7人の末っ子で両親や兄姉からは愛情の前払いもたくさんもらっていた。そのお返しを少しでもできたのだろうか……。

  (2012.04.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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カタクリの里に感動

   岩国市  会 員  片山 清勝

 誘ってくれた知人の車に同乗し、島根県吉賀町にある「カタクリの里」を初めて訪ねた。手入れされた山の斜面いっぱいに、背丈は低いが淡い赤紫色の愛らしい花が群生している。

 「3月下旬から4月上旬に開花し、5月には地上から姿を消す」という案内があった。

 春だけという短い生涯を精いっばい生き、咲いている。小さな花に潜む、そんな強い気構えに感動した。

 カタクリは、近年の急速な自然破壊や盗掘で、めっきり減っているという。そうした中、吉賀町の大群生地は、西日本で貴重な存在になっている。

 住民の手入れによって保たれていることを知り、頭の下がる思いだ。花がそれに応えているように思えた。

 周辺の稲田では田植えの準備が始まり、そこの水面にこいのぼりも映っている。よい風景は、そこに住んでいる皆さんの地域ヘの思いやりから生まれる。撮った写真を整理しながらそんなことを思っている。

 (2012.04.20 中国新聞「広場」掲載)

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