2018年5月26日 (土)

消えた腕時計

  岩国市  会 員   山本 一

 腕時計を紛失して2週間が過ぎた。1万円程度の安物だが、電波受信と光発電で、もう4年間ずっと全自動で正確に動いていた。重宝し、外出時は必ずこの時計を使っている。
 忽然と消えた日は終日在宅で、時計はリビングに置いていたはず。当日は近くに住む娘家族と庭でバーベキューをやった。「3歳の孫が怪しいゾ」とついつい疑念を抱く。が、「理由もなく人を疑うとは何事だ。間違っていたら、どうするつもりか」と自責の念に駆られる。大好きな孫の顔が脳裏にちらつく。これはいけない。現状から早く逃げ出そうと、時計店へ走る。
   (2018. 05.26 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2018年5月11日 (金)

貝汁の味

        岩国市  会 員   吉岡 賢一

 山椒の葉が出始める頃は、食べ物すべてに旬を感じさせるおいしい季節となる。
 春休みになると貝掘りに行き、アサリを引っ提げて帰るのが親孝行の一つであった。母ちゃんが喜んでゴリゴリ洗い、炊きあがった掘りたての貝汁をいただく夕餉は普段気難しい父ちゃんも上機嫌になり「お前が頑張ったのか」と褒めてくれた子供のころを思い出す。
 そして今、食べ物の旬を忘れるほど季節を問わず豊富な食材が手に入る時代となった。でも山椒の葉が1枚浮かぶ貝汁には寄り添い支え合って暮らした家族のぬくもりを思い出させる味わいがある。  
   (2018.05.11 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2018年5月 5日 (土)

AIの息子

        岩国市  会 員   安西 詩代
 

 
 自動車販売店のカウンターに身長15㌢くらいの可愛いロボットが椅子に座っていた。人工知能(AI)が内蔵されているので0歳から知識を吸収して5歳の知能まで育つという。それも育ての親の言葉遣いや教える内容で、いろんな人格()になる。怖い! でも、この自覚と責任感を持って子育てしたなら、もっと違ったと今さら思う。
 
 20歳まで育つロボットが出たら息子の反抗期のように「くそばばあ」と言わない優しい青年に育てよう。でも「お母さん、いつもありがとう」などと言われると慣れていないので背中がムズムズするに違いない。
 
2018.05.05 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2018年5月 4日 (金)

いとしき花

  

 岩国市  会 員   横山 恵子

 エッセー仲間のYさんから「昨年もらったエビネランが小さな花を咲かせたよ」と言われた。嫁入り先で大事に育ててもらっていると、うれしさもひとしお。エビの背のように見えるところからエビネランと呼ばれるようになったという。
 実は下関在住の時、亡夫が教えた子の親からいただいた思い入れのある花。季節が巡り花が咲くと、当時のことがいろいろと思い出される。
 日陰で、ひっそりと咲く。花言葉は「謙虚」「誠実」などとか。私にしている(?)と思うと、ますますいとしさが増してくる。
  (2018.05.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2018年5月 3日 (木)

何とかなるよ

  岩国市  会 員   樽本 久美

 前向きな人と出会うと、こちらまで元気になる。たまたま趣味の会で知り合った86歳の女性。なんとなく馬が合い、いろいろな節目で、その人にアドバイスをいただく。今回は、私の方がアドバイスをした。
 手術を控えているHさん。今住んでいる有料老人ホームを出て、家に帰りたい
と話していた。家では一人暮らしとなる。半年前に、家で転んで救急車で運ばれ、何とか命を取り留めた。子供は、遠くに住んでいるので、近くの親戚が頼りである。自由が大好きなHさん。さすがに、ホームの生活に不自由を感じているようだ。よくやってくれるホームであるが、やはり「家に帰りたい」と思う気持ちが強くなってきている。  
 私の母と同世代。娘の立場では、家に帰って1人暮らしをするよりはホームでの生活を勧めたいところだが、Hさんの日ごろの活動を考えて「好きなようにしたら」とアドバイスした。結局はホームに残ることにしたようだ。80歳からピアノを習ったり、真っ赤なドレスを着て社交ダンスをしたり、やりたいと思った時が「今」と思っているHさん。話していると、私も頑張らなくてはと思う。
 Hさんがいる老人ホームで、書道を教えて
いくことになった私。今まで後回しにしてきた、書道の先生に来年から挑戦していこうと決めた。今の仕事を辞めて、大変ではあるが少しずつ準備をしていこうと思っている。背中を押してくれたのはHさんである。「何とかなるよ」。お互い。

  (2018.05.03 毎日新聞「女の気持ち」掲載)

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2018年4月26日 (木)

医院待合室 私と同姓次次

      岩国市  会 員   林 治子

 かかりつけの医院へ、月一回の診察に出かけた。午前中はいつも混んでいるが、その日は人が少ない。やった! と喜んでいると、診察室から「林さん、御大事に」とう声が聞こえてきた。出てきたのは私と同じ「林」姓の友人で、転んでけがをしたそうだ。

だんなさんが押す車いすに乗っていたが、大したけがではなかったと聞いて安心し、「夫婦仲良くていいじゃん」と冷やかしておいた。

しばらくして「林さん」と呼ばれた。立ち上がりかけると、隣の女性が「は~い」と返事をした。私より先に待っていた「林」さんだったのだ。そして次の人も、その次の人も「林さん」。呼ばれるたびに腰をうかしては、拍子抜けした。

帰り際、受付の中から「今日は、林さんが多かったね」と言う話し声が聞こえた。その一人である私にとっても、初めて体験する不思議な出来事だった。

2018.04.26 読売新聞「私の日記から」掲載)

           



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2018年4月24日 (火)

イチジク

      岩国市  会 員   角 智之

 転居前の我が家には大きなイチジクの木が数本あった。中学生のころ、空腹を紛らすため重宝したが、熟れかけの実をたくさん食べて口角がただれ、食事の時など口を開けるたびに痛くて困った記憶がある。
 平成になって間もなく台風で倒伏したが、6年前、イチジクに改良品種がたくさんあることを知り、今の住所へ植えてみようと思い通販で苗木を買った。
 昨年秋から収穫できるようになったが、まだ木が若く実も小ぶり。だがセールス文句にたがわず、とても甘い。秋の実に先駆け6月下旬に熟れる夏の実も大きく美味という。楽しみだ。
   (2018.04.24 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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心に残る植物観察会

   岩国市   会 員   角 智之

 1979(昭和54)年、山口県周防大島町久賀(当時久賀町)の事務所へ転勤した。
 赴任先の先輩係長は山野草に詳しく、現在中国新聞 「防長路」面に「四季折々 やまぐちの花」を連載している山口植物学会会長の南敦先生と親交があった。その年のゴールデンウイークに先輩は先生を伴っての植物観察会を町内の源明山で計画し、私も参加した。
 先生から、瀬戸内海では島により自生している植物が少しずつ異なり、町内にも珍しい植物がたくさんあると聞いて驚いた。
 その中の数種は自生地が限られた大変希少なものだという。ある先輩から町内の沢でワサビの自生を見たという話を聞いたことがある。温暖で夜間は冷涼な気候が多様な植物を育んだのであろう。
 林道工事で盛り土の中にアケビらしいものが見つかった。根が残っていたため持ち帰って植えると93年ごろ、一度だけ茶褐色で丸い実を付けた。アケビとは異なるようだった。
 この時季になるといつも観察会を思い出している。

     (2018.04.24 中国新聞「広場」掲載)

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2018年4月20日 (金)

春の便り

     岩国市  会員   林 治子

 関西に旅行した友からお土産に「いかなごの佃煮」をもらった。播磨灘でとれ 生いかなごでショウガやサンショウを入れて炊き上げる佃煮。舞子に住んでいた叔母の得意料理。当時、大阪に住んでいて「取りにおいで」という電話をもらうと、心うきうきと出掛けたものだ。
 電車を降り高台の家まで坂道をゆっくりと歩く。淡路島が春がすみに包まれ、のどかな海。素晴らしい自然の名画。胸いっぱい新鮮な空気を吸う。温かいご飯に乗せて食べるおいしさは格別。叔母が逝って春の便りも届かない.久しぶりの懐かしい味と共に叔母を思い出した。
  (2018.04.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2018年4月11日 (水)

新聞 日常に欠かせず

   岩国市   会 員   片山清勝

 新生活が始まる時期に合わせて「春の新聞週間」が始まった。
 私が新聞を読み始めたのは1949年、小学3年だった。戦後の混乱は収まってはいなかった。そんな頃に「新聞
を読んで感じたこと」を発表する時間があった。今のNIE(教育に新聞を)の先駆けかもしれない。
 それから69年、新聞は日々の生活から切り離せず 「速報は放送、詳細は新聞から」と配達を待つ。家族の一員と同じような存在になっている。
 このところ「確認したが、ない」などとした公文書の存在が明らかになり、改ざんや隠蔽など、政府や行政の姿勢が問題になっている。この問題でも放送は聞き流して未消化で終わる。その点、新聞は納得できるまで読み返せる。解説はより深く理解させる。
 紙面にはさまざまな情報がある。全てが気に入るものではないが、そこから自分とは異なる考えを知り、思いやりも生まれる。広場欄はそんな集約面の一つと思う。
       (2018.04.11 中国新聞「広場」掲載)  
 

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