2009年11月12日 (木)

「墓参り」

        岩国市  会 員    治子

 「ようお参りなされましたのー」と住職の声に迎えられて山門をくぐる。
 
 
母が眠っているのはかなり奥。後ろに大きなイチョウの木がある。枝を広げて、まるで大きな手で母の墓を守っているかのよう。銀杏を一つひとつ拾いながら、いつしか母と話し込んでいた。「お母さんの手料理を食べたくなったわ」。ご飯、茶わん蒸し、おでんとこの時期は銀杏を入れた母の料理が食卓をにきわした。今は父と差し向かいで杯やっているのかな?

 いつしか辺りは夕闇が迫ってきていた。「気をつけて早うお帰りよ」。母の声がする。      

     (2009.11.12 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2009年11月11日 (水)

「セルフGSで若者の奮闘に思う」

   岩国市  会 員   片山 清勝 

 
寒い日が続くという予報が出た日、暖房用の灯油を買いに行った。持参のポリタンクにセルフで購入。店独自のサービスポイントが積み立てられ、さらにグリーンスタンプの点数も加算される。何か得した気持ちになった。
 そこのスタンドの従業員数が少なくなっている。以前は3入くらいで働いていたが、前回も今回も1人の姿しか見えない。セルフ以外の車へのガソリン給油や灯油の量り売り、ポイントの入力に電話応対と、若い男性が小走りで忙しく働いていた。   

 報道では雇用の厳しい状況が続いている。有効求人倍率は低いまま推移し、失業者数は増加している。中小企業では明るい望みは見えてこない。そんな背景の中でその若者は一人もくもくと働いていた。トイレや弁当の時間は確保出来るのだろうか、人のことだが心配になる。たまたま立ち寄った時間が勤務表で少ない時間帯だったら救いではある。だが、前回と同じように一人で働く忙しさを目にして気になった。

 スタンドを出るとき、「ありがとうございました」という若者の大きな声が後ろから届いた。なにか救われたようで、直ちに「頑張れよ」の意味を込めて車の窓から手を出して応えた。
 
2009.11.11 朝日新聞「声」掲載)

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2009年11月 5日 (木)

「逆境の赤い線」

    岩国市  会 員   沖 義照

 
台風の接近で秋というのに天の低い昼下がり、久しく見向きもしなかった古い文庫本のなかから1冊を取り出した。見開きに万年筆で購入日が書いてある。21歳のとき買ったものだ。

めくっていくと、最後のぺージに赤い線が引いてある。「傷ついても、之が神から与えられた杯ならばのみほさなければならない」というくだりである。失恋という逆境こそが、より強く生きることができる原動力だとうたった武者小路実篤の『友情』である。

 私が逆境でもがいていたときに読んだ本なのだろう。赤い線が、左に右に大きく揺れ動いている。
 
2009.11.05 毎日新聞「はがき随筆・特集『実』」掲載)

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「白い袋」

   岩国市  会 員   中村 美奈恵

 
息子は中学2年のときから反抗期に入った。クラブも勉強も友達ともうまくいかず、時には学校を休んだ。彼には高校3年の弟がいる。兄とは反対に、順調に歩んできた。

 そのことがプライドを傷つけたのか、全く弟と□を利かなくなった。大学に入り一人暮らしを始めた今も変わらない。大人になれば、わだかまりも消えると信じていても、2人笑顔で並んだ幼いころの写真を見ると切なくなる。

 ある日、九州に行ったとお土産を置いた。白い袋をのぞいた途端、涙があふれた。中には太宰府のお守りが。その時初めて、息子の真実の気持ちを知った。
  (
2009.11.05 毎日新聞「はがき随筆・特集『実』」掲載)

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2009年11月 4日 (水)

「応 援」

      岩国市  会 員   貝 良枝

美容専門学校に通う娘が帰省した。荷物を置くとすぐに「座って」と私を椅子に座らせる。後ろに回り、肩をマッサージし始めた。最近習ったそうだ。

 少し甘めだが、美容院で仕上げにしてもらうそれと同じだ。続けて夫もしてもらう。顔のマッサージもしてもらった。女が幸せと思うときは上げ膳据え膳で食事したとき。そして、髪をセットしてもらうときだろう。

 今日はそれを家に居ながらしてもらい、幸せなひとときを過ごした。ベッドで安心しきって寝息を立てる娘に、小さい声で力を込めて言った。「頑張りいよ!」   

 (2009.11.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2009年11月 2日 (月)

「夫婦の危機に歩き方を自覚」

  岩国市  会 員   山本 一 

 私の癖はスリッパで歩く時に足を引きずること。パタパタと音を出す癖を自分では意識していなかった。ある時、思い知らされた。
 私たち夫婦は今年で結婚40周年を迎えた。自分で言うのも面はゆいが、夫婦仲に関する限り至極平穏に過ぎてきた。ところが数年前、定年退職後暫くして夫婦の危機が訪れたのである。 
 単身赴任先から私が自宅に戻り、妻と妻の母の3人同居となった。お互いに環境ががらりと変わり、次々と嫌な部分が見えてくる。一番の問題は、私が義母の気になるところを妻に言ったことだ。これが妻をひどくいら立たせた。
 そんな頃、妻が突然、「スリッパを引きずらないでよ」と凄い剣幕で怒りだした。これまで一度も言われたことがないので面食らった。慌てて直そうとするが駄目だ。これは私の癖なのだと気付いた。結婚して初めて夫婦の危機を感じた。
 二人の娘も当時は随分心配したと言う。「波浪警報」は1年以内で終わった。今、毎晩寝る前に書斎の机に並んで座る。寝酒を飲みながら、それぞれのパソコンに向うのが日課の熟年夫婦である。 
   (2009.11.02 朝日新聞「声」掲載)

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2009年11月 1日 (日)

「母に言えぬ田畑荒廃」

   岩国市  会 員   山本 一 

 私の古里は岩国から60㌔ほどの島根県吉賀町である。郵便局員だった亡父は、田畑をまったく持っていなかった。終戦直後は米や野菜がなかなか手に入らず、周りの農家がうらやましかった。
 田畑を持つことが父母の共通の夢となった。やがて当時としては大金をはたいて念願の田畑を手にした。母は土いじりが大好きで、元気なころは終日、田畑で過ごした。
 寝たきりになって数年の母が「畑はつくりよるかのお」「高い金をかけたのに」と言う。私はあいまいに「うん、サツマイモが間もなく掘れるよ」と答える。
 曲がりなりにも耕している畑は、全体の1割にも満たない。私にはこれが限界である。草ぼうぼうに荒廃した現状は、口が裂けても母には言えない。
 
私たち4人の子どもは中学卒業と同時に古里を離れ、岩国で下宿して高校に通った。父母は生活をぎりぎりに切り詰め、子どもと田畑に金を使った。
 
長男の私は、当時の質素な生活を思い出すと胸に迫るものがある。今、父母が夢にまで見てやっと手に入れた田畑を私たち子どもは持て余している。
  
2009.11.01 中国新聞「広場」掲載)

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2009年10月28日 (水)

「食の安全肝に銘じて」

    岩国市  会 員   横山 恵子

 発がん性物質に変わる恐れのある成分を合む花王の食用油「エコナ」について、花王が特定保健用食品(特保)の表示許可を取り下げる「失効届」を保健所に提出、受理されたという。私はあぜんとした。
 許可されたものが、なぜこんな結果になったのか、納得がいかない。きちんと説明してほしい。
 わが家もお中元などで頂いた「エコナ」。「体に脂肪がつきにくい」と書いてある。メタボ予防にいいし、何より「特保」だし、安心して使っていただけに裏切られた思いでいっぱいだ。 
 この件だけでなく近
年、事故米の不正転売や産地偽装など食の安心安全をめぐる問題が後を絶たない。企業のモラルはどこにいったのか。情けなくなる。
 食は健康のもと、命の源である。私たちは家族の健康を願って表示を見て購入している。これでは一体、何を信用したらいいのか。
 一度失った信用は容易には取り戻せないことを企業は肝に銘じてほしい。消費者も正しい知識を身につけて、しっかりと選ぶ目を持つことが大切だと思う。
   (
2009.10.28 中国新聞「広場」掲載)

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2009年10月27日 (火)

「老けた代役」

   岩国市  会 員   沖 義照

 
夕方、散歩して家の近くまで帰ってきたとき、男の子がグラブを持ってコンクリートの壁に向かってボールを投げているのに出会った。この子とは数ヶ月前に1度キャッチボールをしたことがある。「キャッチボールやろうか」、「はい」。話はすぐに決まった。
 サラリーマン時代の昼休み、毎日ソフトボールをやっていた。28年前に買ったグラブを家から持ち出しキャッチボールを始めた。
 
この子には祖父はいるがお父さんがいない。6年生というが、まだ幼さが残るかわいい顔だ。
 「スポーツは?」「水泳を習っています」。野球はあまりやっていないようだ。ボールの投げ方を見ても体を正面に向けてぎこちなく投げる。「体は横に向けて、こうやって投げるんだよ」と、にわかコーチをする。
 「ボールを捕る時には、高いボールはグローブをこう向けて、低いボールはこう向けて捕る」と、キャッチングの基本も教える。何とか投げて捕る格好がつくようになった。
 私がこのグラブを買ったのは、息子が10歳と5歳の時。休日にはよくキャッチボールをして遊んでやった。男の子とキャッチボールをしながら、自分の息子と遊んでいたころを懐かしんでいた。ちょうどその時、男の子の祖父が自転車で通りかかった。「遊んでもろうとるんか、ええのう」。少年が少し恥ずかしそうな顔をして私を見た。
   
2009.10.27 毎日新聞「男の気持ち」掲載)

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「事故防止体感学習で」

   岩国市  会 員   吉岡 賢一 

 秋の日は「つるべ落とし」といわれる通り日が沈むと、いきなり夕闇が迫ってくる。そんな季節の移り変わりによって夕方の交通事故が多発するというニュースが流される。それも被害・加害ともに高齢者が目立つといういわく付きだ。
 14日付中国経済面の「作業事故の危険性体感」という記事を目にした時、「安全は掛け声だけでは維持できない。実際に肌で感じる体感教育が欠かせない」と思い知らされた。
 大半の大人が自動車を運転する現在、すべての運転者に体感学習による交通安全の習得を義務付けることは至難の業かもしれない。ましてや運転をしない歩行者にまで危険予知の体感教育を実施するのは、さらに難しいかもしれない。だからといってなおざりにはできない。対策は侍ったなしである。
 運転者も歩行者も「自分の安全は自分が守る。他人の安全も自分が守る」という基本意識の浸透に目を向けてほしい。全員参加によるきめ細かい体感学習が欠かせない時代になっている。移動式のコンパクトな交通安全体感装置なるものの開発も望まれる。
   
(2009.10.27 中国新聞「広場」掲載)

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