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2007年3月

2007年3月29日 (木)

「5円のはがき」

    岩国市   会 員    安西 詩代

「花などは目にも入らず母恋し」「去年(こぞ)の今日一家揃うて我が庭で花見弁当食べしを思えり」という俳句と和歌だけが書かれたセピア色の5円の郵便はがき。

消印は昭和40年です。18歳の春、初めて家を離れて学生寮に入り、毎日寂しくて公衆電話で母の母の声を聞いては涙していたころ、父が送ってくれたものです。

でも、その時の私には俳句と和歌だけのはがきは慰めにはなりませんでした。次の年、父が逝ってしまい、はがきだけが残りました。明治生まれの朴訥な父の愛情がわかる齢(よわい)になった時から、この5円のはがきに父を感じるようになりました。

 (2007.03.29 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2007年3月27日 (火)

「みつけた!文学の中の山口」

    岩国市   会 員   沖 義照

 岩国が故郷でありながら、長年岩国を離れていた。久しぶりにその故郷に戻って来た九月の半ば、知人に誘われて川西にある宇野千代の生家を訪れた。題名だけは良く知っていた「おはん」をそこで買い求めた。
 
 穏やかな秋の木洩れ日の下で座って読んでみた。わずか九十三ページの小説の中で、三十五ページにも亘って岩国の町の古い町名・地名が出てくる。鍛治屋町、大名小路、鉄砲小路、曲尺町、新小路、豆腐屋町、臥竜橋、竜江と。
 
 その何れもは、現在でも日常まだ聞くことのある、耳に心地よい響きのするものだ。「おはん」を読んでいると、城下町の余韻が残る古い岩国の町を、ぶらりあたかも散策しているかのような不思議な錯覚に陥った。
(2007.03.27やまぐち文学回廊構想推進協議会「みつけた!文学の中の山口」掲載)

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2007年3月22日 (木)

「孫への新聞]

    岩国市   会 員   片山 清勝

 それは嫁のメールから始まった。京都の孫娘が3歳になる少し前、「ひらがなが読めるようになりました」と届いた。

孫とのコミュニケーションを図ろうと思い、パソコンで新聞作りを始めた。孫の名前と同じタイトルで、B5版片面の小さな新聞。季刊のつもりで作り始めたが、面白くなり、いつの間にか月刊にー。ふと数えたら今月で70号、私の年齢を超えた号数になっていた。

紙面は、たわいない日常のことを、デジカメで撮った写真と一緒に載せる。誕生月や季節の節目などには力を込めて作る。今月は庭に来るメジロの写真を大きく載せた。斬新な紙面を心掛けるが、難しい。ネタ薄の時は、大きな活字で手抜きになる。でもいくつかは自己満足の紙面もある。

孫は新聞を楽しみに待っていてくれる。しかし、いつまで興味を持って読んでくれるだろうか。加齢とともに孫の成長へついていけなくなり、休刊になる時は近いかもしれない。小学校卒業まであと4年、頑張って続けたいと思っている。そうなれば私も古希70歳になる。

嫁は奇麗にファイルし、時折孫の顔を見に訪ねてくる実母に見せているという。うれしいこと、この上ない。ここまで続いている理由の1つに、嫁のこの心遣いがあるように思える。

(2007.3.22 中国新聞「広場」掲載)

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2007年3月 9日 (金)

「嫁いでいった雛人形」

   岩国市  会 員   檜原 冨美枝

 帰ってくるなり娘が言った。「お母さん、淳子ちゃんの家にも眞由美ちゃんの家にも、みんなお雛様が飾ってあるのに、何で家にはないの?」

 来るべきものが来たと思った。母を早く亡くした私には、実家からその心遣いはなく、さりとて8人家族の我が家にもその余裕はない。理由も言わずに「ごめんね」とだけ言った。

 

 娘は納得いかないらしく、寂しそうであった。色紙を買ってきて2人で作ることにした。木製の書類入れを空にして、引き出しを逆さまに差し替え、長短にして赤い布を敷いたら、立派な5段の雛壇ができた。

 人形は絵を見てそれらしく作った。お内裏様、三人官女、五人囃子が勢ぞろいし、我ながら見事なできばえだった。何の飾りもない床の間がにわかに華やいだ。

 娘は大喜び。近所の店であられを買ってお供えし、残りを2人で食べた。40年前の切ない思い出。

 何年かそのお雛様で桃の節句を過ごした。後で聞くと、この時期になるとあまり友達の家へ行かないようにしていたという。

 やがて娘も成長し、すてきな人に巡り合い、25歳で結婚した。婚礼家具の中へ、手作りの雛人形をそっと入れ、大切にするからと言って娘は我が家を後にした。涙をこらえ、幸せになるのよと笑顔で見送った。

  (2007.03.09 毎日新聞「女の気持ち」掲載)

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2007年3月 3日 (土)

「おひなさま」

    岩国市  会 員   樽本 久美

 3年前、母が私のために,木目込みで作ってくれたおひなさまを、壊してしまった。女びなの人形の顔が割れてしまった。母の思いを考えたら、壊してしまったことを言えなかった。

 ある時、母が「おひなさまをそろそろ出した方がいいよ」と。ついに、本当のことを言わなくてはいけなくなった。「実は、落として割れてしまったんよ。ごめんなさい」。すぐに直して飾るからと、2年間、そのままにしていた罰が当たった。

 この年は、父が入院して大変な年になってしまった。後で考えると、おひなさまのせいかな?人形は「心・魂」を持っているのである。この人形は、母の思いがこもっている。何で早く直さなかったのか悔やまれてならなかった。

 今年は、ケースも買って、おひなさまを飾ることが出来た。あらためて、おひなさまの顔を見ると、何と、すてきな顔をしているものであるか。みとれてしまった。

 今年は、盛大にお祝いをしたいものである。「あかりをつけましょ ぼんぼりに」。あらためて、母の、親の愛情を考えさせられた出来事であった。

  (2007.03.03 中国新聞「広場」掲載)

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