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2007年6月

2007年6月30日 (土)

「空くじ」

  岩国市  会 員   沖 義照

 

小さくてもいい、ガラス張りの日当たりの良い部屋が欲しいと、妻は長年つぶやいている。しかし、年金生活だから簡単にはかなわない。

「一千万円当たればいいのにねぇ」と思い出したように言う。数年前から、時に宝くじを買うことにした。買った時さえ忘れていることもある。こんな調子なので、「空くじ」ばかり、かすったこともない。

「宝くじ」という字をよく見ると「空くじ」にも見える。当たらないのは、そういう目で見ているからか。そういえばこの二つの文字、字画までも同じであることが許せんと、二人で券に八つ当たりして憂さを晴らしている。

 (2007.06.30  毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2007年6月27日 (水)

「ありがとう」

   岩国市  会 員  中村 美奈恵

 ある日に夕方、息子を散髪に連れて行った。「坊ちゃん刈りにしてください」。そう告げて椅子に座り、鏡越しに息子を見ていた。

 

 「どうしたんだろう」。私は振り返った。息子を挟んだ2人の美容師の不思議なやり取り。それは手話だった。私の言葉を担当美容師に伝えていたのだ。彼の真剣なまなざしにこれまでの苦労を思い、胸が熱くなった。

 

 散髪を終え、息子が教わった手話は「ありがとう」。頭をなでられ息子はうれしそうだった。私も思いきって「ありがとう」。彼の笑顔に見送られ、ドアを開けた時の風が心地よかった。

  (2007.06.27 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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「おやつ」

   岩国市  会 員   吉岡 賢一

 午後4時。近くに住む孫が幼稚園バスで帰ってくる。差し出す迎えの手をすり抜けて、奥の畑に駆け込む。

 「じいちゃーん、キュウリが大きくなっとるー」と叫ぶ。明日の浅漬けになるはずのキュウリは、勝ち誇った笑顔の彼の手の中に。

 「ばあちゃーん、洗ってー」。今度は家の中に駆け込む。勝手知ったる台所、自分で小皿に味塩盛って、青いキュウリの丸かじり。

 これで何本の初物が生産者夫婦の目の前を通り過ぎていったやら。まあいいか、この雄たけびを聞きたくて汗を流してきたんじゃないか、と思いつつ、それにしても浅漬けはいつになったら……。

   (2007.06.27  毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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「二葉の里」

   岩国市  会 員   沖 義照

 

 広島市に住む先輩が「ひろしま通」という資格を取得したので、案内をしたいと言う。「ひろしま通」とは、広島の魅力をアピールするため、広島の歴史や文化、自然、人物、原爆・平和などの知識を問う試験の合格者に与えられる資格のことである。

 

 先日、その「二葉の里歴史の散歩道」を案内してもらった。新幹線口に降り立つと、北側に小高い二葉山が見える。一帯を「二葉の里」と呼ぶ。散歩道は点在する由緒ある神社・仏閣や史跡などの文化遺産を結んだ約10キロの道のり。国宝1点、国や県市の重要文化財などが23点もあるという。

 

 パンフレットをもらい、説明を聞きながら歩いた。近くに住んでいながら、こんなに良い所があることを知らなかった。ごく限られた地域に多くの文化遺産があることに驚く。いくつかの建物・史跡には原爆の爪痕が今なお残っており、ある柱は爆風で傾き、ある手水鉢は灼熱で表面が剥離している。爆心地から遠く離れていても大きな被害があったことを知る。

  

 このたびはごく限られた地域の散歩であったが、もう一度ゆっくりと訪れてみたいと思わせる「二葉の里歴史の散歩道」であった。

  (2007.06.27 中国新聞「広場」掲載)

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2007年6月22日 (金)

「成長した虫」

      岩国市  会 員  片山 清勝

虫も殺せないイエスマン。転入3ヶ月目、真摯実直だが、発言を控える彼への裏評価。その彼が、職場の机に顔を伏せていた。

窓越しに見た背中は男泣き。知らぬ顔をして「帰るか」と誘った。秋の日暮れ道、彼は明るくふるまった。翌日から、意識して彼の発言を促した。1年。自ら意見を出し始めた。

転勤する彼の送別会。一言も言わず目を見つめ、私の手を握った。力強い握りに彼の自信を感じ、うれしかった。

先日「定年、街づくり活動をしています」とはがきが届いた。書き添えられたバラの絵、二十数年前の、秋の夕暮れの空と同じ橙色だった。

(2007.06.22 毎日新聞「はがき随筆;四季特集『虫』」掲載)

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2007年6月21日 (木)

「鵜飼まわり道」

   岩国市   会 員   吉岡 賢一

 「東ゃ長良か西ゃ岩国か…」の「岩国鵜飼音頭」に乗って錦帯橋の観光鵜飼いが戻ってくる。存続か廃止かー。官民一体となって協議を重ねた末、市内の財界有志が運営母体となることで存続が決まり、7月1日から開催される運びとなった。

 

 夜空に浮かぶ5連アーチの錦帯橋。川面に映えるかがり火。そして烏帽子に腰蓑といういでたちの鵜匠のあざやかな手綱さばき…。それらが一つになって醸し出す幽玄の世界。それは岩国市民の誇りであり、古里自慢の一つでもある。

 長年守り続けてきた伝統の灯を絶やさなかった今回の英断。観光鵜飼いでは老舗である岐阜や三次からいただいた物心両面にわたる援助やご厚意を無駄にしなかった関係者にエールを送りたい。

 今後はわれわれ岩国市民が今まで以上に積極的に協力することを忘れてはならない。存続か廃止かなどというもつれた議論が再燃しないことを願っている。「もつれさせない手綱さばき」が真髄の鵜飼いなのだから。

  (2007.06.21 中国新聞「広場」掲載)

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2007年6月16日 (土)

「つづる楽しさ」

    岩国市   会 員   横山 恵子

広場欄への投稿が縁で同好会「エッセイサロン」の仲間入りをさせてもらった。会員は13人。月1回の定例会で、持ち寄った作品を読む一方、代表のOさんが作ったテキストで勉強を重ねている。

読みながら熱く語り合ったり思わず涙ぐんだり。こんな楽しみ方もあるんだなあと世界が広がったような気がしている。今年1月、念願の同人誌「花水木」を発刊した。いろいろな思いが詰まったこの本は私たちの宝物である。

先日、ある新聞社の支局長さんに講師をお願いして仕事の苦労話やエピソードを聞いたり、私たちの作品にアドバイスしてもらったりした。

支局長さんは「文は人なり。文には書く人の人柄がにじみ出てくるもの。日々の暮らしの中で物事を見つめる力が大事」という意味のことを話され、思わずうなずいた。これから年を重ねても感動する心を失うことなく、そのときどきに感じたことを書いていきたいと思う。

(2007.06.16  中国新聞「広場」掲載)

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2007年6月 6日 (水)

「体力づくり」

    岩国市    会 員    井上 麿人

 1月14日、鹿児島県であった指宿菜の花マラソンに参加した。初のフルマラソンだ。

 4年前、かかりつけの主治医から「体重は人並以上、体力は並み以下・・・」と言われた。メタボリックシンドロームという聞き慣れない横文字が、マスコミの俎上に上がる頃だった。

 減量する気になった。 勧められるままにウォーキングを始めてみたが、のどは渇く腹は減るで、あっという間に5キロも増えた。

 「走ってみたら」と妻、一方、「はまるからよせ」と息子。走り方もわからないまま、近くの公園で走り始めた。少しずつ距離を延ばして行くが、転倒、ねんざ、けいれんとなれない故障も多くなった。それでも続けた。

 3年で9キロ減った。ストレッチ、水分補給、テーピングなども次々と覚えた。声を掛けてくれるジョガーもでき、大会参加の案内状も来るようになった。妻も応援に駆けつけてくれる。

 減量が目的で始めた体力作りがいつか体力強化となっている。汗の出る量ほど足は出ないが、何よりビールが旨い。

 快晴の薩摩路42.195キロ完走できた。

       (2007.06.06  朝日新聞「声;特集『体力作り』」掲載)

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