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2007年10月

2007年10月30日 (火)

「引き継ぎ」

      岩国市  会 員  片山 清勝

ウオーキングは朝刊の配達時間帯と同じ。いつの間にか配達の人たちと「おはようございます」とあいさつする仲になった。

ある朝、その中の一人が2台連れ。前のバイクの人はいつもあいさつする人。後ろの人は初対面。初めは家のポストまで一緒に……。順調に引き継ぎ出来たのか1週間でバイクは1台になった。

サラリーマン時代に何度か引き継ぎをした。最後の申し送り、定年の時はパソコンの前であっけなく終った。薄暗い少しカビのにおいがする書庫で製本された書類をめくり、思い出話をしながら引き継いだことを懐かしく思い出す。

  (2007.10.30 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2007年10月25日 (木)

「捨てられないもの」

 岩国市  会 員   沖 義照

なかなか捨てられないというものがある。古い写真・古い年賀状など思い出に関連したものが多い。記憶を形に残しておきたい心理からだと思う。普段は決して見ないものばかりであるが、捨てるとなるとなかなか決心がつかない。

文庫本も、その一つだ。昭和30年代、1時間に1本走る汽車に乗って通学していた。かばんの中には、いつも安くて小さな文庫本を入れていた。

それらは今なお私の書棚にびっしりと並べて置いている。セロハンのように薄くすき通った紙のカバーが掛けられているが、朽ちて破れているものが多い。ことあるごとに妻からは「この汚い本は、もう捨てましょう」と言われる。

確かに見栄えは悪く、場所は取り、ほこりっぽくもある。しかも最近は取り出して読むこともあまりない。しかし、いつまで経っても捨ててしまう決心は、なかなかつかない。どの本にも私の青春時代の思い出が閉じ込められているからだ。

先日、久しぶりにその書棚の前に立ち、古い文庫本を開いてみた。ところどころに赤インキで線が引いてある。そこを立ち読みしていると、ふと青いレモンの香りがしてきたように感じた。
  (2007.10.25 中国新聞「広場」掲載)

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2007年10月20日 (土)

「感謝胸におばと別れ」

   岩国市 会 員  横山恵子

 広島のおばが84歳で祖父母の元へ逝ってしまった。息子夫婦や孫夫婦、ひ孫たちに見送られ、ふっくらとした穏やかな顔だった。

 60代でリウマチを発症し、晩年は苦しい闘病生活だった。本人はもちろん身内にとってもつらい日々だった。痛みから解放されたという複雑な思いもある。皆が次々「ありがとう」「よく頑張ったね」と言いながらほおをさすったり、髪をなでたりした。

 おじによると、私の投稿を楽しみにしていたという。もっと読んでもらいたかった。おばちゃん。私が訪れる時はバス停で定刻より30分以上も前から待っていてくれたね。おすしやおはぎがとってもおいしかったよ。帰る時は、いつも姿が見えなくなるまで見送ってくれたね。ごめんね。孝行できなくて…。

 お葬式は、残された人たちが仲良くするようにという儀式でもあると思う。おばから聞いていたかわいいひ孫たちにも会えた。どうか穏やかに育ちますように。「おばちゃん!! おじいちゃんや私たちに夢の中でもいいから、時には会いに来てね。約束よ」

 (2007.10.20 中国新聞「広場」掲載)

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2007年10月10日 (水)

「女 心」

    岩国市  会 員  檜原 冨美枝

 猛暑のため食欲の落ちた夫の朝食に、具たくさんの朝食を作ってあげた。バランスのよいものをと、いろいろな野菜を刻み込んだ。それぞれの素材のうまみがかみ合って結構おいしく、ボリュームたっぷりの卵焼きができあがった。

 「暖かいうちにどうぞ」と差し出したが、夫は黙っている。「おいしい?」と尋ねても、ウンともスンとも言わずハシを運んでいる。「薄味にしているので好みに合わせて、おしょうゆでもかけてね」といったが、相変わらず返事がない。だんだん腹がたってきた。

 一生懸命、時間をかけて作っているのは分かっているはずなのに、夫の口から「おいしい」の一言がでてこない。女性は一言のほめ言葉で、「よーし、明日も頑張っておいしいものを作ってあげよう」と、発奮するのである。これが夕食ならお銚子の一本も追加するのに、女心の分からぬ損な人だ。

 でも、心ない冗舌を聞くよりは、ましなのかも知れない。何よりもお皿が全部からになっているのが、おいしかった証拠である。最後に、夫は「あー、満腹」と一言。それで全てを了解した。夫はまだ現役である。食生活に留意し、元気でがんばってほしい。
  (2007.10.10  朝日新聞「声;特集『食欲の秋』」掲載) 

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