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2008年7月

2008年7月30日 (水)

「アルバイト」

   岩国市  会 員   片山 清勝

高校の3年間、夏休みと冬休みに郵便局の集配のアルバイトをした。6時半に出勤、赤い自転車で街中のポストを回り、投函された郵便物を集める。一休みして小包の配達補助、それが終わって弁当を食べる。午後もう一度ポスト回りをして終業だ。
 
 はっきり記憶しているが、50年前は日給で300円だった。夏と冬を合わせて、およそ1万5千円のアルバイト料を得た。これは当時の1年間の校納金に相当し、それにあてた。母が喜んでくれたことを思い出す。

 若くても夏は暑かった。クーラーなど無い時代、そんな時代だったからかもしれないが、お中元の配達先で「小さな郵便や、これで元気出せ」とよく冷えたラムネ瓶を出された。汗を拭きながら飲むそののどごしのさわやかさは、時が過ぎた今も忘れられない。

 アルバイト料の他に、こうした人の温かさや思いやりという何物にも代え難い姿に接し、学んだことを今も感謝している。

 郵便局のシンボルの赤い自転車はバイクに変わり、局内は機械化されたという。パタパタと音を立て切手に消印を押す、あのスタンプのリズミカルな音を懐かしく思い出しながら、暑中見舞いを書いている。
 
2008.07.30 朝日新聞「声特集『アルバイト』」掲載)

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「ゆっくり歩く」

   岩国市  会 員   樽本 久美

 仕事と趣味に忙しくしていた私。体調が悪く病院に行ったら川柳仲間のAさんと偶然出会った。

 川柳講座では、いつも優しい言葉をかけてくださる80歳のAさん。「今は、なかなか川柳が作れないんです。川柳を始めたころは楽しく作れたのに……」と言うと「あなたには、まだまだ時間があります。焦らず、のんびりと作りなさい。作りたくなくなったら、少し休んだらいいよ」と。

 そうなんだ。焦ることはない。川柳も日常生活も同じだ。無理してまで頑張る必要はない。少し肩の力を抜いて、周りの景色を見る余裕を持って、ゆっくりと歩いていきたい。
 (2008.07.30 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2008年7月25日 (金)

「お中元」

    岩国市  会 員   安西 詩代

 
プランターに青ジソの種を植えた。我が家のミョウガが出ると、ネギも加えて3種の薬味だ。

夏には、毎日そうめんでも良い夫は、青ジソの芽が出て、柔らかい葉を楽しみにしていた。

 ある日、葉に穴が開きめた。葉を揺らすと、1センチ弱のバッタが、何匹もぴょんぴょんと跳んで逃げた。「バッタ君お願い!夫に半分残してね」との願いもむなしく、数日後にはきれいなレース状の葉ばかり。まだ夫は数枚しか食べていないのに……。

 こんなにバッタが青ジソが好きだとは思わなかった。だから体が青ジソ色? 今年のシソの葉は、バッタ君のお中元になった。

  (2008.07.25 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2008年7月19日 (土)

「一体何が…」

       岩国市  会 員   山下 治子

 「ただいまぁ」。車はあるのに、返事がない。玄関先の植木鉢が割れ、ドアも窓も開けっ放し。救急箱や洗濯物、バッグまでもが散乱。

 2階に駆け上がり、部屋をのぞいて歩く。もしや押し入れに縛られて……。そうっとふすまを引いたその時。

 「帰ってたの、早かったね。デカデカの百足にやられて痛いの何の。
病院へ連れて行ってもらってきた」と包帯を巻いた片足を引きずりながら私が登場!

 「犯人は百足かよ。事件かと思ったのにな」と息子は苦笑い。事件を期待してた? 残念ね母は強しだよ。でも、うずく痛みに、本当は泣きそうだったんだ。

 (2008.07.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2008年7月17日 (木)

「鵜の目孫の目」

       岩国市  会 員   吉岡 賢一

 好奇心のかたまりで、体のあちこちに目が付いているような小2と年長の孫兄弟。フナ、カニ、ザリガニ、アメンボー。動くものなら何でもいい。鵜の目孫の目で動物を探す。


 ぬかるんだあぜ道を走る足を止め「じいちゃん、あれ何か知っとる?」。ハス田の境界壁面やハスの茎にへばりついた、色鮮やかなピンクのウインナーソーセージ? 「タニシの卵なんよ」

 どこで誰に教わったのか。孫に教えられ初めて知った。早くも老いては子に、いや孫に従えか……。あーぁ、気を取り直し、次はタニシが孵化する瞬間を3人でじっくり観察してみよう。

  (2008.07.17 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2008年7月16日 (水)

「メイドイン我が家」

        岩国市  会 員   吉岡 賢一

 花と香りを楽しんだ実家の梅の木が、今年も豊富に実をつけた。梅雨の晴れ間をねらって、妻とふたり梅もぎに汗を流し70キロ余を収穫した。 

 梅干、梅ジュース、梅みそ、砂糖漬けなどなど、先人の知恵を現代風にアレンジして、一粒の無駄もなく保存食品として加工した。食欲の落ちる夏場、冷やっこや新鮮キュウリにまぶす梅みその食感は抜群、食欲をそそる。

 食料自給率40%を割り込んだわが国の現状を考える時、食べ物を粗末に扱うことは自殺行為に等しい。地球温暖化と同じで、その対策は避けて通れない人類の死活問題である。

 ささいなことかもしれないが、自然がもたらす木の実を一工夫すれば、一石三鳥、四鳥にもなって夏バテ防止の漬物や清涼飲料として食卓を飾り、その分の出費を抑えてくれる。

 一方で食材の産地偽装などは日常茶飯事。そこへいくとこれぞ正真正銘「メイドイン我が家」、安心安全食品の王様である。過疎に悩む実家の梅林を、せめてこの手で守り育て、来年も梅の実の収穫を楽しみたい。
   (2008.07.16 朝日新聞「声;特集『節約術』」掲載)

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2008年7月10日 (木)

「逃げ道」

        岩国市  会 員   檜原 冨美枝

 真夜中の2時、目が覚めライトをつける。黒光りするゴキブリが、机の下に入り込む。

 周りを包囲し、逃げ道を1カ所に絞り、主人を起こす。綿密な計画の下、連携よろしく見事捕獲した。

 1寸の虫にも5分の魂というが、台所を預かる主婦にとって宿敵ゴキブリだけは許すことはできない。あらゆる手段を講じ、撲滅に努力する。

 昔は夏だけの虫だったのに、冷暖房完備した今は、1年中生息し冬でも姿を見る。ゴキブリのような人、と嫌な形容詞に使われて気の毒ではあるが。

 主人いわく「わしも計算ずくで追うてこられたら逃げ道はないのー」。

  (2008.07.10 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2008年7月 9日 (水)

「兄弟をつなぐ糸」

       岩国市  会 員   山本 一

 
私は4人兄弟の長男である。結婚以来1度も欠かさずに、妹や弟たちへささやかなお中元を贈ってきた。みんな離れ離れに暮らしているが、時にはお互いの縁(よすが)に思いを巡らすことが必要だと思ったからである。   

 ところが毎年、弟妹からは「届いた」との返事がほとんどなく、私へのお中元は、8月も半ばを過ぎて時々送られてくる程度であった。

 こんな中、今から2年前、父の1周忌の時に全員がそろった。よい機会なので「あげたり、もらったり、こんな無駄なことはお互いもうやめよう」と提案した。妹や弟たちが、内心はお中元のやりとりを負担に感じているのではなかろうかと思ったからである。

 ところが昨年の夏、何と弟妹それぞれから7月になるかならない頃、相前後して早々とお中元が届いた。驚いてお礼の電話をしたあと、それとなく過日の約束をほのめかした。

 年は巡り、今年もまもなくお中元の季節がやってくる。もし弟妹からまたお中元が届いたら、2年前の約束をほごにして、私もみんなに心を込めてお中元を再開しようと思っている。兄弟が離れて生活していても、時にはお互いをつなぐ糸として、お中元のやりとりは意味があると思う。
2008.07.09 朝日新聞「声;特集『お中元』」掲載)

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2008年7月 3日 (木)

「腕時計」

   岩国市  会 員   広森 紘一

 
 三十数年ぶりの腕時計。新婚旅行先で買ったものの、普段から時計はしない。そのうちに子供の玩具になった。

 孫娘が「動くの?」と聞いた。竜頭を巻いてみると、何と秒針が動く。奇跡的に動き始めたのを、時計店の主人は「ご夫婦と共に、時を刻もうという強い思いがあったから」と冗談交じりに言う。

 無数の傷は子供たちだけが付けたのではない。ここまでの人生、小さな狂いやキズはあったが、止まることはなかった。

 今は片時も離さない時計も一緒に、しっかりとネジを巻いていこうと思っている。

  (2008.07.03 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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「親心を届ける宅配便」

        岩国市  会 員   横山 恵子

 年に何度か息子夫婦に宅配便を送る。夫が作ったわが家の野菜も届けている。先日はグリーンピースやタマネギなどを詰めた。

 到着コールの翌日、息子の嫁からメールがあった。「豆ご飯とってもおいしくいただきました。ありがとうございました」。文章とともに豆ご飯の写真が添付してあった。びっくりすると同時にうれしくなって家族にも見せた。

 嫁とは縁あって親子になった。嫁しゅうとめの関係は難しいといわれている。私も結婚してから夫の親族との付き合いなど不安なことがいっぱいあった。その経験を生かして暖かい気持ちで接したい。

 親しき仲にも礼儀ありという言葉も忘れまい。頼りないかもしれないが、人生の先輩として、家庭を築いていく二人を見守っていけたらと思う。
 (2008.07.03 中国新聞「広場」掲載)

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2008年7月 1日 (火)

「モモちゃん」

岩国市  会 員   稲本 康代

 「モモちゃん!」。大声で呼んでいるのに知らんぷり。ポンと背をたたくとびっくりして振り向く。我が家の愛犬パグの今日このごろ。

 14年前の夏、私の手のひらに乗る可愛さであった。それが今や10キロを超えている。鼻ペチャな陳腐な顔に似ず、なかなか賢い。

 散歩していると「歩くボンレスハムだね」と言われ変に納得したこともある。
最近はいつもうずくまりぼんやりひなたぼっこをしている。寂しいな……。

 でも、独り暮らしの私をどれだけ癒してくれたことか。あと共に過ごせるのは何年だろう。モモちゃん、お互い元気で頑張ろうね。
 (2008.07.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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