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2008年8月24日 (日)

「青黒い海」

岩国市  会 員   沖 義照

5歳になったばかりの昭和22年3月、トラックの荷台に積まれた大きな荷物の間に乗せられて大連港に向かった。数日間倉庫の中で待機したあと、今度は引き揚げ船に乗せられた。

 大きな船が港を出た。翌日、船の底から母に手を引かれて甲板に上がり、大勢の人とただ一点を見つめていた。「ボーー」と、ひときわ長く低く汽笛が響いた。その時、青黒い海に向かって大きな白い箱が斜めに滑って落ちていった。

 箱は波間に浮かんだまま、ゆっくり遠ざかって行った。たった数日の引き揚げ船の中で、こんな光景を何度か見た。故国を目の前にして命尽きた人の水葬であることは後で知った。

きらきらと光る明るい瀬戸の海を見るとき、60年前に見たあの底のないような青黒い海での出来事を、ふと思い浮かべるときがある。

 大連にいるとき幼なかった私には、戦争につながる記憶は何もない。苦しかったとか、ひもじかったとか、怖かったという記憶も。

 ただ、引き揚げ船の甲板で見たこの光景だけは鮮明に記憶している。あの時のあの人たちは、あの海の底で今も静かに眠っている。

 引き揚げてきた日は昭和22年の3月18日だったという。

 8月15日、今年も終戦記念日のサイレンを聞きながら1分間の黙祷をした。戦いに敗れて63回目の夏。   
  (2008.08.24 毎日新聞「男の気持ち」掲載)

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コメント

久々にエッセイらしい文章ですね。

さすがですね。

おめでとうございます。

私も頑張ります。

投稿: anne | 2008年8月26日 (火) 22時18分

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