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2010年3月

2010年3月31日 (水)

「ケーキの味は」

    岩国市  会 員   片山 清勝

親子教室で作ったという大きなケーキを笑顔で抱いた孫娘の写真が届いた。それを見ながら電話していた妻が声を詰まらせる。「おばあちゃん、近くだったら一緒に食べれたのにね」と言う孫の思いやりの一言に胸が熱くなった。そう話す妻のうれしそうな笑顔、それは病み上がりを感じさせない明るさだった。

京都に住む孫は、進級につれ自分の気持ちを分かりやすく話せるようになり、成長を感じている。4月からは小学6年生。優しい気持ちも一緒に育ってくれたらうれしい。夏に帰省したら同じケーキを作らせ、味わってみようと楽しみにしている。   
   (2010.03.31 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2010年3月26日 (金)

「また会える」

       岩国市  会 員   安西 詩代

老人施設に入っている96歳の義母は、息子が面会に行っているのに「息子に来るように言ってちょうだいね」と言う。スタッフには自分の息子を「スマートで髪の毛がふさふさしてハンサムなの」と言っている。

現実の息子は72歳で、髪の毛はなくなりメタボな体になった。いくら面会に行っても息子と認めてもらえない私の夫。過去の中にたたずんでいる義母は、現世では息子に会えることなく2人は遠くなってゆく。

今日はお彼岸。お寺で聞いた「倶会一処」(くえいっしょ)とは、浄土でまた会えるということだそうだ。「おかあさん、きっとまた息子に会えますよ」
    
2010.03.26 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2010年3月25日 (木)

「ご当地検定を岩国で」

       岩国市  会 員   片山 清勝 

 「岩国の歴史や文化を市内外の人に知ってもらい、それをご当地検定まで膨らませよう」という活動に誘われた。
 考えてみれば、私の知っている故郷の歴史や文化、自然も人も狭くて超薄っぺらなことに気づいた。知れば知るほど広くて味わい深いだろうと考え、参加を決めた。初会合では全員がやる気を述べ合った。
 その後、町を歩くと、無意識に通りすごしていた所に思い出がたくさん残っていることに気づいた。そんな思い出と今の様子を写真と一緒に残しておこうとブログに「町かど」というカテゴリーを加えた。ふと出合った風景や耳にした話、懐かしい行事などもこまめに残したい。
 数回の会合を重ね、故郷の恵まれた姿を教えられている。何かを知るということは年齢に関係なく、うれしいものだとあらためて思う。
 市内の人には愛着と誇りを持ってもらい、市外の人には岩国をよく知ってもらおうとボランティア活動ながら大きな目標を立てている。その終点である秋のご当地検定へ向け、メンバーは頑張っている。
    (2010.03.25 中国新聞「広場」掲載)

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2010年3月20日 (土)

「お気に召すまま」

      岩国市  会 員    洋子

わが家のあちゃん、といっても立派な成犬である。いつも足元で爆睡している。これには立派な理由がある。指示があれば、あるときは投げられたボールを追いかけ、またあるときは一緒にドライブに出かけ、川であろうが野原であろうがお構いなしに飛び込んでいく。いつも精いっぱいご主人様に尽くす。健気である。

 夫はあ
ちゃんなくては一日が回らない様子だ。端で見ていると、どちらが主権を持っているのか分からない。

 今もあ
ちゃんはカーペットの上で爆睡中だ。きっと雪野原を駆け回っている夢でも見ているのだろう。ねっ、あちゃん。
  
2010.03.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2010年3月15日 (月)

「年をとったらやっぱり必需品」

      岩国市  会 員   吉岡 賢一 

 一緒に生活してきた母が98歳を過ぎた頃、完全な寝たきりになり、やむなく療養型介護施設にお世話になることにした。入所面談の折、「高齢ゆえいついかなる状態になるか、そのリスクをしっかり承知しておいてください」と医師からの宣告。その時、「これがら携帯電話は肌身離すまい」と誓った。
 いついかなる時も施設との速やかな連絡態勢を整えておくことが、母と一緒に生きているせめてもの証しだと思いたかった。それから2年半、施設との連絡は固定信話で十分事足りていた。
 ある日の夕方、後にも先にもたった1回だけ、施設からの呼び出しが携帯電話に入った。受けると同時に車を走らせたが、部屋に着いた時はすべてが終わっていた。それでもまだぬくもりのある母の額に手を当てることはできた。そして精いっぱいの「ありがとう」を心の中でつぶやいた。
 どこで何をしていようと、確実に連絡が取れる重宝な代物。これからの生活を考えると、携帯電話はこれまで以上に手放せないと思う。使いこなすなどおこがましいが、てこずりながらもやっぱり仲良しでいよう。
    (2010.03.15 朝日新聞「声」特集;携帯電話掲載)

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2010年3月13日 (土)

「老いらくの心」

       岩国市  会 員   山本 一

「お父ちゃんが近所の若い娘を好いちょるんよ」と母が言う。父が80歳、母が71歳のころである。「いい年をして」と当時の私は一笑に付した。その後も、介護施設の父の部屋に入り浸りの女性がいて、母が激しく妬ける。私は驚きながらも「年寄りが」と軽くあしらった。

ところが、後期高齢者となった今の私はどうだ。女性に対する心のありようは、若いころからちっとも変わっていない。肉体は年老いても、異性に反応する心は変わらない。老いた父母の心も一緒だったのだ。

 お彼岸にはお墓に行って「親父、もてたんだね」と言ってやろう。
   
2010.03.13 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2010年3月10日 (水)

思いこみの常識 反省

  岩国市 会 員   山本 一

妻は、ラジオ大好き人間。家事をしながら必ずラジオをつけている。ある朝、「3畳一間とは随分狭いですね」と言う女性アナウンサーの声に思わず考え込んだ。バックに南こうせつの「神田川」が流れている。

 私は3畳一間の歌詞に違和感は全くない。高校時代に3畳一間の下宿生活をしたが、むしろ当時は広いと思った。やっと手に入れた自分の隠れ家でもあったし、雑魚寝に近い家庭状況から脱出できて最高に幸せな気分だった。

友人や弟などの下宿も同様で、どんなに広くても4畳半までだった。

 あらためて考えてみると、今は風呂と洗面付の1Kが最低で、常識は1DKなのかもしれない。アナウンサーの感想は間違ってなく、むしろ私の思考が停止していたのだと気付く。

 昔の歌に共感を覚えるのは良いが、今も昔の常識を引っ張っている自分が見える。他のことでも、過去に経験したことを常識と思いこんでいる可能性があり、反省しきりだ。ぶつぶつ独り言を言っていたら、「やっと分ったのか」と言う目で妻ににらまれた。

2010.03.10 中国新聞「広場」掲載)

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2010年3月 9日 (火)

「心は春風」

       岩国市  会 員   横山恵子

買い物帰りの駅近くで手紙を投函した途端、肩をたたかれた。振り向くと、中年の女性が身ぶり手ぶりで一生懸命伝えようとされるのだが、わからない。どうやら耳の不自由な方のようだ。

 20円を私の手に握らせタクシー乗り場を指さされるので車を呼んでということかと納得。電話ボックスの中で「さて番号は? そうだ、タクシー乗り場に置いてあるかも」と思って見たら、彼女も指さしている。

 残りの10円を渡し指で丸を作ったら、私の手を握りしめ何度も頭を下げられた。良かった
 たとえ言葉は通じなくても、心は伝わるのだ。温かい余韻が残った。
   
2010.03.09 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2010年3月 4日 (木)

「ニホンズイセン」

    岩国市  会 員   稲本 康代

 この季節、あちこちの庭や川土手にうつむきがちに咲いている花が見られる。私の大好きなニホンズイセンである。控えめな姿もかわいらしいが、その香りは心を落ち着かせる。

 昨年、知人の案内で上関町のスイセンの群生地を訪れた。小高い丘の一面、スイセンのかれんな花々が咲き満ちて、言葉に表せない感動である。と眼下に原発問題でゆれる祝島があった。反対派と推進派に二分されている町。こんな優しい花があふれている丘の下で……。

 言いようのない感情が渦巻いた。今年もまた、スイセンたちは海風に吹かれながら祝島を眺めているだろう。

  (2010.03.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2010年3月 3日 (水)

「こうふん」

岩国市  会 員   井上 麿人

料理教室に通っている。エプロン、包丁は自前。講師は近所のおば様たちだ。だが、レシピは横文字。名前が覚えられない。

 エビの皮むき、胸肉のそぎ切り……、しょうゆ味が好みなのに味付けはペッパー、パプリカ、ガーリック。塩はいつも少々。

 「素材の味を楽しんでください」と教えられる。チョー薄味。芋でさえ、裸で味の勝負を強いられているこの教室では、否定的な口吻は慎んでいる。

 長生きをしたいだけの健康法などごめんだが、周りに負担はかけたくない。食に関する敬虔な思いを妻に話していたら「芋の皮をむいて!」ときた。

   2010.03.03 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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