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2012年6月

2012年6月30日 (土)

「けんかの幸せ」

       岩国市  会員   山本

 

「明日は釣りに行くから」と言うと「駄目よ。朝から歯医者だから」と妻が返す。最近夫婦のいさかいが絶えない。
 
 年金生活に合わすため、2台あった車を1台にした。お互いの行動が制限され、とにかく不便だ。一の釣行は絶対譲れない。妻が自転車で行くということで折り合う。5㌔もあり、何だかかわいそう。「出発を遅らせ、歯医者へ送ってから行くよ」と少し譲る。
 
 ところが、翌朝急に体調が悪くなる。喉は痛いし体はだるい。とても釣りに行けない。妻も心配顔になる。「車の取り合いができる幸せ」にお互い気付く。

2012.06.30 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2012年6月27日 (水)

「幸せの布おむつ」

    岩国市  会 員   山下 治子

 

友人の息子さんのお嫁さんは25歳。半年前、かわいい坊やが生まれた。
 
 息子しかいないその友人は、お産の時にお嫁さんは実家に帰るものとばかり思っていた。ところがお嫁さんの実家から、同居の弟妹が多く、母親の仕事もあって、お産はそちらで見てくれないか、と申し入れがあったそうだ。友人はまさかお産のお世話ができるとは、と大喜びした。私も息子ばかりなので、その話はうらやましい限りだった。
 
 ある日、友人宅へ伺うと、ベランダに布おむつが揺れていた。お嫁さんは「洗って使えば家計も助かるし、エコにもなるって、おばあちゃんがくれました」と屈託がない。今や産院ですら使われない代物を持たせる祖母もさりながら、なんと素直なお嫁さんだろう。友人が用意していた紙おむつは外出の時に、と決めて使っているそうだ。
 
 私が「お嫁さん、うんちを嫌がらないの?」と聞くと、友人は「それがバケツで洗って庭の肥やしに、ってまくの」と言う。離乳食作りも本を片手に奮闘しているとか。まるで私たち世代の子育てを見ているようだ。我が家の孫は、完全に紙おむつ。私も布おむつのたたみ方すら忘れている。
 
 友人のご主人は帰宅が早くなり、赤ちゃんの相手をしているという。友人はすっかり幸せばあちゃんに浸っている。こんな光景、なんだかうれしい。どうしたらこういうお嫁さんに、巡り会えるのかしら。
 
  (2012.06.27 毎日新聞「女の気持ち」掲載)

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2012年6月22日 (金)

「老いらくの恋」

       岩国市  会 員   吉岡 賢一

 

「時代を先取りしよう」。ある日、突然職場に運び込まれた見慣れぬ箱。パーソナルコンピューターという舌をかみそうな厄介者。肩が凝る、目はしょぼくれる特訓の日々。何とか乗り越え、信頼関係が深まるにつれ、その明せきな頭脳、底知れぬ魅力に完全に脱帽。
 
 こしゃくにも、いったん機嫌を損なうとテコでも動かない頑固さを秘めてはいるが、おだてたりすかしたりして25年のお付き合い。
 
 今では右手をちょっと動かすだけで、世界の物知り博士に仕立て上げてくれる。朝は朝星、夜は夜星、一日とて離れられない存在となった。

  (2012.06.22 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

 

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2012年6月21日 (木)

「やりすぎかしら」

   岩国市  会 員   山下 治子


 7月に定年退職を迎える夫が、残りの年休を使うので早めに帰省できると言ってきた。「いつ?」「6月26目」。大変だ、1ヵ月を切っている。

 単身赴任12年の間に、私の物がだいぶのさばってしまった。夫のスペース、急いで取り戻さないと! 本棚、押し入れ、夕ンス、思いのほかためている。あれもこれもと片付けるので、なかなかはかどらない。
 息子に気になる風呂場のカビ落としや庭木の手入れ等頼むと「ほどほどにして、お父ンの仕事残しとけや」と真顔で言う。「えっ?」「ぼけの防止だよ」。それもそうだね……。

2012.06.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2012年6月19日 (火)

「超特急」

      岩国市  会 員   中村 美奈恵

 

日曜の朝、うつらうつらしていると枕元の携帯が鳴った。近所の友人からだ。 「今日は自治会の掃除よ」
 
 一気に目が覚めた。時計は820分。えーっ。慌てて跳び起き、顔を洗う。ファンデーションぐらい塗りたいけど時間がない。素早く着替え、手ぐしで髪をとくとスコップ片手に駆けつけた。「すみませーん」

溝掃除。たまった泥をすくい、土のう袋に詰める。水を含んだ土は重く腰が痛い。空腹での作業はこたえる。手分けしながら進めると、長い溝の底が見えた。みんな汗だくだ。帰り道、友人が言う。「遅刻が目立たなくてよかったね」

  (2012.06.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2012年6月13日 (水)

愛情感じた猫の親子

   岩国市   会 員   片山 清勝

 片側1車線の向こう側に同じような色の子猫3 匹と、その親が並んでいた。どうするのかと見ていたら、親猫が左右に首を振った。

 次の瞬間、親は走って横断を始めた。子猫らは転がるように、その後を追う。渡り終わった親は追ってくる子どもらの様子を見守る。

 無事そろったところで、ゆっくりと草むらへ入って行った。

 親猫が首を振ったのは、車の途絶えを確認し、安全に横断するためのしぐさだった。

 どこでそんな方法を学んだのだろうか。

 猫たちは、人間の都合で捨てられたのだろう。親が子をしっかり守るという尊い姿を見て、なぜか気持ちが温かくなり、逆に人間社会に絶えない子どもへの虐待を少し恥ずかしく感じた。

 もう会うことはないだろうあの猫の親子。梅雨の長雨を避けて休む所があるのか、気になる。

 ペツトは最後まで飼い通してほしい。草むらを見返りながら、そう思った。

  (2012.06.13 中国新聞「広場」掲載)

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2012年6月 8日 (金)

「それなりが良い」

        岩国市  会 員   安西 詩代


 愛車が9年目の車検を迎え、タイヤを取り換えることになった。車検から帰ると車内の音がとても大きくなっていた。調べてもらうと、タイヤそばのベアリングが原因だった。今までの古いタイヤなら調和がとれていたのに、新品になり引っ張られて音が出始めたそうだ。愛車は戸惑って悲鳴を上げているのだと可哀そうになった。

私だって65年間使った足から若い娘の足に替えられ、カツカツとヒールで足早に歩かれると心臓はハクハクするし、心はイライラする。ごめんね! あなたに合ったちょっとだけ新しいタイヤにすればよかったのにね。

 (2012.06.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

 

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2012年6月 1日 (金)

「おいしい記憶」

      山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 

娘が取れたてのさや入りのえんどう豆をもらってきた。ボールの中に小さな緑の玉がポロロンコロロンと音を立てながら落ちていく。子供の頃、母が作ってくれる豆ご飯がおいしくて、お豆のシーズンが待ち遠しかった。結婚すると主人が嫌いだと言うので、ずっと我慢してきた。

義姉が「嫌いと言うのは、おいしい物を食べたことがないからよ。義兄もおいしい物を作れば食べられるようになったよ」とアドバイスしてくれた。

ほくほくのえんどう豆の緑色が食欲をそそる。おいしそうに食べていたら、つられて主人の手が伸びてきた。やったあ!

  (2012.06.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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