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2013年6月

2013年6月21日 (金)

「思い出は?」

     岩国市  会 員   稲本 康代

 

久しぶりに姉妹3人がぞろい、40年前のアルバムを引っ張り出した。一枚一枚の写真を見ながら盛り上がる。私が「この人、○○ちゃん?」「違ういね」。この繰り返しの中で、写真にまつわるエピソードを話しながら笑ったり、しんみりとしたり、あっという間に時間は過ぎた。

でも、私は少々複雑であった。妹たちの記憶力はすごく、写真1枚でいろいろと話が展開して続く。しかし、私には記憶がないのである。いよいよ……。いや、楽しくない過去は思い出したくないから記憶が出てこないだけだ、と無理して自分を慰めた。

   (2013.06.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2013年6月18日 (火)

「梅雨の晴れ間」

         岩国市  会 員   山下 治子

 

時々帰る夫を、たまに訪ねて行く私は「愛人気分のしゃれた関係みたい」と楽しんでいた。新婚の時以外に、私たちが一番仲良かった時かもしれない夫の単身赴任の頃が懐かしい。 
 退職後はお客さん扱いもしなくなり、何となくささいな事でのいがみ合いが多くなっている。心を痛める長男。「まただよ」としらけの次男。そこへ「まぁまぁまぁ」と1升瓶さげて「どっちも悪くて、どっちもいいでしょう」と三男のおちゃらけが私たちのつなぎを取ってくれる。渋々、角を収めながら「子はかすがい」のことわざが、この年にして思い当たるとは。

  (2013.06.18 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2013年6月 7日 (金)

「心で味付け」

 岩国市  会 員   山本 一

 

 妻が突然高熱で寝込んだ。晩酌をしていて急に思い立ち、ビールを片手におかゆを炊く。
 5勺の米を入れたところで「さて、水はどれくらいだろうか」と迷う。5倍の水を入れる。炊き始めると直ぐに水がなくなる。底にもくっつく。お玉でかきまぜる。水を足す。食べて見るとまだ硬い。水が足らない感じだ。今度は熱湯を入れる。何とか終了。一口試食して、思わず吐き出しそうになる。まるでのりみたいで、恐ろしくまずい。
 が、妻は「おいしい」と言って食べた。きっと心で味付けしてくれたのだろう。
   (2013.06.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

 

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2013年6月 6日 (木)

「いつか来る道」

 岩国市  会 員   中村 美奈恵

 

中2の三男と2人の夕食。朝のみそ汁がおわんに1杯残っている。「ねぇ、もやう?」「うん」。大根入りのみそ汁を息子が食べ、私も食べた。 
 「もやう」とは、物事を一緒に行うこと。方言かと思ったら「ちゃんと辞書に載っているよ」と息子が言っていた。ひと皿のおかずを2人で寄り合って食べることもある。
 でもいつか「お母さんと一緒じゃイヤだ」と言う日が来るだろう。中2の秋から急に口数が減った長男のときのように。
 大きなマグカップに麦茶をいっぱいついで、もう一度聞いた。「もやう?」 「うん」

  (2013.06.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2013年6月 4日 (火)

「エビでタイ」

       岩国市  会 員    樽本 久美

 

最近、特に家事がおそろかになっていた。そろそろ雷が落ちるかなと思っていたら、ついに……。「あと1週間で締め切りだから、もう少し待って」と私。翌日は少し手をかけて夕食づくりをした。

何となく主人の機嫌がいいようだ。私が寝ている時に、書道家の武田双雲さんのビデオをとってくれていた。「感謝、感謝である」。もう一つおまけに、一眼レフのカメラを買ってくれるとのこと。「やったあ」。小躍りして喜んだ。

結婚26年のご褒美かな。いや、いや。もしかしたら、主人は何か欲しい物があるのかな? たぶん……。

   (2013.06.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

 

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2013年6月 1日 (土)

「本物よ!」

  岩国市  会 員   安西 詩代

 

玄関を出ると一筋の香りが風にのってきた。今年も白いつぼみがたくさんついている。隣のミカン畑の花が2、3輪開花している。今年も家中にミカンの花の香りをたき込めたような至福の数日間が訪れる。思いきり息を吸い込むと体中が甘い香りでいっぱいになる。
 私がミカンの花の話をすると、友人はキンモクセイの花が咲いていた頃のこと話してくれた。子供に「いい香りでしょう」と聞くと「あっ! トイレの香り」と言ったそうだ。作られた香りがあふれるこのごろ。本物の香りを体感できる幸せを思い深呼吸した。
 「あ~! とろける」

  (2013.06.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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