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2014年10月

2014年10月31日 (金)

もっと見たい

     岩国市  会 員   森重 和枝

 「おばあちゃん!」「あんたがここにどうして来たん?」「顔、見に来たんよ」。施設にいる姑に面会に行く度に、交わす会話だ。その時、目をパチクリさせて、にこっとする笑顔が、私は大好きだ。
 
 介護士さんに「あなたが見えると、笑顔が違いますね」と言われる。やはり、待っていてくれるのだ。耳が遠くなって、会話はスムーズに進まない。
 
 12月で白寿になる。百歳の坂はなかなか越せないと聞く。
 
 姑には、長寿記録を作ってほしい。一方通行でもいい。笑顔で一生懸命、話してくれるのを、もっと見ていたいと思っている。     

  (2010.10.31 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

 

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2014年10月27日 (月)

空泳ぐ赤トンボ郷愁

    岩国市   会 員   横山恵子

 先日、朝台所に行くと、天井近くに何か飛んでいる音がした。
 よく見ると、何と赤トンボ。懐かしいものに出合った気がした。昔は「赤トンボは神様のお使いだから、捕ったらいけん」と言われていたものだ。
 逃がしてやると、勢いよく飛んでいった。赤トンボ (アキアカネ)は、秋に湿った水田に産み落とされた卵が翌年ふ化し、7月上句には成虫になるという。
 子どもの頃は多くの赤トンボが飛んでいた。特に田舎に行くと、稲刈りの田の上を気持ち良さそうにスイスイと泳ぐように飛んでいた。
 それは、日本では当たり前の秋の風物詩だった。でも、いつ頃からだろうか、庭や近所の神社で数匹を見る程度になった。減ったのは、農薬の影響や休耕田が増えてきたためといわれている。
 赤トンボだけではなく、四季折々の美しい光景が少なくなっていく。いつか、そのしっぺ返しを受けるのではないかと危惧している。

       (2104.10.27 中国新聞 「広場」掲載)

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2014年10月22日 (水)

新しい手帳に

      岩国市  会員  片山 清勝 

 定年退職は10月。その日、使い慣れた会社手帳から市販のものに変えた。すると何とも言えない新鮮さと、新たな道へ踏み出したという自覚が生まれた。これが「気分一新」か。それからは毎年この時期に翌年の手帳を購入する。
 1冊目のとき、白紙の手帳に家族の記念日や両親祖父母の命日などを記入した。その程度では予定欄は埋まらない。この先、埋まっていくのか心配した。
 
その後、契約社員として勤務したり、誘われたり飛び込んだりして複数の趣味の会や団体に入会や参加をした。すると自然に予定欄が埋まり、退職日の心配は消えた。今は半年先の予定もちらほら。私的な予定を変更することもある。
 今年の手帳をパラパラと繰ってみる。大方は予定とその結果、災害発生などの覚え書きで、雑事に思えることが多い。そうは言っても人との約束は間違って迷惑をかけてはいけないと、心して書き込んでいる。
 
そんな手帳が机の引き出しの奥に並んでいる。取り出して見ることはなく、保管する意味はない。そう思うが断捨離は忍びがたく、自分なりの跡が残ると思い、そのままにしている。会社人間だった。定年後、家でごろごろしているのではと妻は口にこそ出さなかったが心配していた。今は私の予定を確認してから頼みたい家事を言い出す。新しい手帳は15冊目。忘れ防止の相棒としてこれから1年、よろしく頼むよ。
 

            
     (2014.10.22 毎日新聞「男の気持ち」掲載)

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実家の詐欺対策

    山陽小野田市  会員  河村 仁美

 

 実家に電話をかけると、いつも母が出る。「もしもし」。聞こえてきたのは父の声だった。めずらしいこともあるものだと思いながら「もしもし、ひとみよ」と答えた。でも、補聴器をつけている父には聞こえなかったのか、何度も「もしもし」を繰り返す。「誰から?」。母の声が聞こえた。沈黙の後、ガチャンの音と共に電話が切れた。名前を名乗ったのに、もしかしてオレオレ詐欺に間違えられた?
 両親そろって80を過ぎているので怪しい電話は切って詐欺に遭わないようにしているのだろう。安心したけれど、お父さん、自分の娘の声は忘れないでね。

     
             (2014.10.22 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

 

 

 

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2014年10月20日 (月)

市助の業績を再確認

        岩国市  会 員   片山 清勝

 ノーベル物理学賞に日本の3人が選ばれ、大きな感動をもらった。その発明の効果を、日常生活で無意識に使っていることに驚いている。
 受賞理由の中に「20世紀は白熱電球が照らしたが、21世紀は発光ダイオード (LED)によって照らされる時代になるだろう」という選考委員の言葉があった。
 白熱電球は日本のエジソンと評され、日本の電気事業の基礎を確立した岩国市出身の藤岡市助に連なる。
 市助は日本の照明の先駆者たった。エジソンの白熱電灯発明を知り、これが今後の室内照明の方向性と見定め、今の東芝の前身となる電球製造の白熱舎を創設した。
 白熱電球の下で蛍光灯が発明され、その明かりの下でLEDの研究が進み、実用化されノーベル賞に輝いた。
 錦帯橋近くの公園に市助の銅像が立つ。その視線の先には、LEDが使われた照明用の電灯がある。今日の受賞を予測していたかのようなその姿を見ながら、郷土の先人の業績をあらためて誇りに思う。

2014.10.16 中国新聞「広場」掲載)

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2014年10月11日 (土)

信じてほしい

      岩国市    会員   山本 一

  「私が先で良いのね」「いや、俺が先だ」「だって、間違っても妻より先には逝きたくない、と書いてあったよ」

 妻は毎週日曜日に手作りパン屋を開店。私は毎回のビラにエッセーを連載している。妻は風邪も引かないし、下痢は結婚以来一度もしない。私は、風邪はよく引くし、すぐに下痢する。腹が立つが、先に死んでもらっても困るし、これで良いのだ。そんな趣旨の、最後の1行を書き間違えた。

 「やっぱり本音は私に先に逝ってほしいのね」と根に持つ様相。趣味の川柳を寝室に貼った。「俺よりも先に逝くなと妻に言う」

  (2014.10.11  毎日新聞「はがき随筆」 掲載)

 

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2014年10月10日 (金)

聴こえた?

     岩国市  会員  横山 恵子

 

 脳梗塞の後遺症に苦しんだ夫。帰省した息子に「カラオケがリハビリになるんだって」と言うと、翌日、私たちを連れカラオケ店へ。まず、夫が「黒田節」を披露。思わず、息子が「お父さん、うまいじや」と声をあげた。 

私には「お母さんが、あれほど下手とは思わんかった」。 

  以後、「黒田節」は夫の十八番。しかし、声が出にくくなりカラオケから遠ざかった。少しでも元気づけたいと夫の十八番をフルートで練習した。 

 だが、そのさなかに急死。先日の納骨前夜、遺影を前にして吹いたもう二度と会えぬと思うと写真の夫がにじむ。

  

   (2014.10.10  毎日新聞「はがき随筆」 掲載)

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2014年10月 7日 (火)

8020

      
       岩国市   会 員   片山  清勝

  

「ケリケリ、パリパリ」。これは、昔から食卓にのるタクアンを食べる音。歯切れのいい音は、子どもの頃と変わらない。 

 まだ義歯はない。食が進まなくなると病が近寄る。朝夕、念入りに磨き、定期検診も受けているのは、タクアンを食べられる歯を保つため。
 「おお、いいですねえ」。
診療台で口を開けた時の先生の第一声がうれしい。こ
のままいけば「8020本」が達成できるかもしれないと思う。すると、あの自然界にはない嫌な治療音も、心なしか薄らぐ。 

 タクアンを食べる音は健康な歯のバロメーターだ。 

      
        (2014.10.7  毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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