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2015年5月

2015年5月22日 (金)

記 憶

      岩国市  会 員   森重 和枝

 昭和20年8月14日、岩国大空襲のあった日が祖父の命日だ。その日、祖父は駅近くの会社にいた。真っ黒い煙を上げる駅方面を2階から見つめながら「おじいちゃん、大丈夫かねー」。不安そうに言う祖母の手を、しっかり握ったのを覚えている。

 しばらくして大勢の人が玄関に入ってきた。戸板の上に泥まみれの祖父の姿があった。
 その後の騒動や葬式があったことは覚えていないのに、祖父の土色の顔だけが今でも鮮明に浮かぶ。3歳の子供には、強烈すぎる光景だったのだろうか。70年たった今も、祖父の顔は土色のままなのである。

   (2015.05.22 毎日新聞「はがき随筆」文学賞掲載)

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2015年5月20日 (水)

庭のアンズに夫思う

   岩国市   会 員   稲本 康代

 わが家の庭にあるアンズの木が、今年もたくさん実を付けた。
 主人は中国・雲南省の麗江を友人と旅している最中に、体調を崩して異国で急逝した。それは、アンズの花が満開に咲いている里だった。
 その時、一緒だった友人が、アンズの木をわが家の庭に植えてくれた。
 あれから13年が過ぎて、1㍍近い高さになった。春が来ると毎年、桜に似た薄いピンクの花を付ける。
 私は、その花を眺めながら、さまざまな思いを巡らせ、いつも切ない気持ちになっていた。
 しかし、時間の流れはつらさを忘れさせてくれて、近頃はこだわりなく花を見詰めている。
 そのアンズは、6月に入ると実が熟してきて、梅に似た青い実がだんだんと黄色になる。
 その実を自家製のジャムにするのが私の楽しみになった。上手にビワ色に煮上がったときのうれしさは、例えようがない。
 出来たてのジャムの瓶をかざしている私である。

      (2015.05.20 中国新聞 「広場」掲載)

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2015年5月19日 (火)

初めから仏には

     岩国市  会 員    貝 良枝

  仕事の帰り、1人暮らしの母の家に寄る。今は妹が掃除や食事の世話をしているので、薬を見て世間話をして掃るだけ。  
 妹は時々、母の行動や言葉にイライラして「まー腹がたつ」と私に愚痴る。「まあまあ、怒っても、お母ちゃんはすぐ忘れるんだから、カッカするだけ自分がエライよ」と諭す。
 そんなある日、妹にかわって母の好きなおかずを持って行ったら「魚は嫌いじゃ」と言う。さっと取りあげ、目の前で残飯に入れた。それでも母は、勝手口を出る私に「ありがとう」と言う。悪かったなぁ。鬼になったり仏になったり……。  
    (2015.05.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
 

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2015年5月15日 (金)

誰にも言わないで

       岩国市  会 員   沖 義照

 

出張で故郷の町へ帰ってきた時、学生時代に家庭教師のアルバイトをしていた洋品店の前を通りかかった。店内に幼い頃の面影を残した女性の姿が見える。30年前の昔話をし「上京する機会があったら、電話を下さい」と言って別れた。その半年後、上京するという連絡が入った。
 約束の日の夕方、東京駅のレストランで食事をし、少量のワインで頬を染めて店を出た。別れ際「先生、今日のことは誰にも言わないでください」と言う。私の言動に、他人に言ってはいけないようなやましいところなどあったのか。真意が分からないままいまだ純情に生きている。

   (2015.05.05 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2015年5月 8日 (金)

まわり舞台

      岩国市  会 員   吉岡 賢一

 
放課後の校庭で遊んでいた私とO君は、先生に呼ばれて300人の保護者が見守る講堂の舞台に立たされた。言われるままアカペラで歌ったのが「おぼろ月夜」。直後に自分の歌声が講堂に流れる不思議を感じた。
 あれが、時代の先端を走る「録音機」導入のデモンストレーションであった。思いがけない小学4年の初舞台。人前で歌う快感と「おぼろ月夜」の歌詞は子供心に焼き付いた。あれから64年。歳月はあの紅顔も美声も純真さも遠くへ押しやろうとする。負けてはならぬ、時は春。小節を回さぬよう心して「おぼろ月夜」を今一度。
 (2015.05.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2015年5月 6日 (水)

野菜作り 情熱注ぐ友

   岩国市   会 員   片山 清勝

 野菜作りを趣味にしている同級生がいる。「土づくり」を大切にし、毎日のように畑に通っている。
 私は散歩の途中で彼の姿を見つけると、立ち寄って野菜の話を聞く。彼はいつも話し終わると、取りたての野菜を持たせてくれる。
 彼は先日、「野菜ソムリエの試験に合格した」と話した。野菜作りにかける情熱と野菜をおいしく食べることに関する旺盛な研究心に、私は感服している。それに磨きがかかる今回の試験合格を心から喜ぶ。
 野菜ソムリエは、野菜や果物の知識を持ち、そのおいしさや楽しさを伝えるスペシャリストだ。野菜の魅力を伝えるため、目利き、保存方法、栄養価、料理方法などの知識を備えているという。
 彼はこれまでも珍しい野菜をくれる時、その特徴や栄養価、レシピなどをメールで届けてくれた。その中には自ら工夫したレシピもあった。
 ソムリエとなった彼が作る野菜はより高い付加価値が付くだろう。これからも立ち寄って、飾らない話を聞かせてもらいたい。

   (2015.05.06 中国新聞「広場」掲載)

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2015年5月 5日 (火)

半人前と半人前

  岩国市  会 員   上田 孝

 
「昔、同じ社宅にいた俳優のAに似ているご主人何ていったっけ」「んー?」「あ、思い出した。○○さんだ」「なーんだ。Aに似ているって言うからわからんかった」。人の名前や場所が思い出せないとき、私の説明でカミさんが言い当ててくれることはほとんどない。感覚や発想が根本から違うらしい。ただ日常生活で支障をきたすほどではない。むしろ発想の違いが生かされることがある。クロスワードパズルだ。私は連想が得意だが大雑把、カミさんは正確ではあるがそのまんま。お互い不足を補いあって大概全問クリアする。二人で一人前ということか。
 
  (2015.05.05 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
 

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2015年5月 2日 (土)

選ぶ楽しみ

     山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 
孫が生まれた時に、毎月一枚は必ず写真を撮ってパソコンに送るように娘に頼んだ。その写真をA4判にレイアウトして、それぞれの孫の名前の孫だよりを作って楽しんでいる。写真の大きさも自在、はさみで切るわけじゃないから何度でもやり直せる。最初は自己満足で一人だけで作っていたが、娘がイラストを入れてくれるようになり共同製作中だ。孫は1歳7カ月と1歳1カ月に成長し、数えたら合計で百枚になった。
 
どの写真もかわいすぎて選ぶのが大変だが、写真を見ながら思い出にひたる時間が貴重なひとときになってくれればと思う。
 
2015.05.02 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

 

 

 

 

 

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2015年5月 1日 (金)

僕だけのチョコ

      岩国市  会 員   山本 一

 

趣味仲間の女性からチョコレートをもらった。その後しばらくして花見会があった。宴たけなわの頃、「某女性からチョコをもらった」と1人が告白。すると「実は僕も」と2人目が。次々に続き、最後に「僕だけかと思ったのに」と残念そうに白状したのは唯一60代の″若手″。結局この女性から、何と居合わせた5人がもらっていた。「こっそり渡されたので、ホワイトデーにこっそり返した。もらったのは自分だけだと思った」と異□同音。それぞれが抱えていた甘酸っぱい思いが一瞬のうちに大爆笑の渦に消えた。それにしても、私だけがお返ししていないとは……。
  (2015.05.01 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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