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2016年2月

2016年2月22日 (月)

合 掌

       岩国市  会 員   山下 治子

 旅支度をしに姑は、たった一夜、長く留守した我が家に帰って来た。仏間に横たわり、あいた薄目で家の中を懐かしく見回している。酸素マスクは外れたが、下顎が出て口がしまらない。このままでは切ない。納棺師の方に話すと、硬直した目元と顎を少しずつ少しずつ揉み続け、何と穏やかな面立ちに整えてくれた。淡い紅をさした時、姑のほほ笑みを感じた気がした。
 姑と仲よくなかった嫁は、この時初めて泣いた。
 「おばあちゃん、きれいだね」と息子。「そうだね。おばあちゃん、今からもう一度、おじいちゃんにお嫁入りするみたいね」
 (2016.02.22 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
 

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2016年2月12日 (金)

白髪、乞うご期待!

        岩国市  会 員   安西 詩代     

 

「あっ!やまんば!」。朝、鏡に映る私はボサボサ頭。髪染めをやめて3ヵ月で生え際の白髪が3㌢ほど伸びていた。「今年こそ、白髪にする」と決めていた。嫁は「お母さん、まだ早すぎますよ」、友人は「すぐに挫折して染めるわよ」と言う。

私も自信はない。今まで1㌢伸びるとすぐに染めていた。だが伸びている白髪を見ると、とてもきれいで輝いている。眺めていると、なんだかいとおしくて染める気が起こらない。

 友人の7割が反対する白髪だが、□紅を少し濃くお化粧して、顔にキリリと力を入れて、姿勢をしゃきっとさせて鏡の前に立ち、「なかなかいいよ!」と、私はつぶやく。見かけは若く見えないけれど、話してみると年相応。これが自然で良い。

 夫は「白髪は似合うと思うよ」と言ってくれる。家庭内の抵抗勢力がないのも私を心強くさせる。高校の同級生も同じことを考えていたが、彼女は母に「私が染めているのにあなたが先に白髪でどうするの」と言われたらしい。

 気分は変わるものだ。数カ月後の私は白髪か? 元通りの染めた髪になっているか?

  (2016.02.10 朝日新聞「ひととき」掲載)

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2016年2月 6日 (土)

沈丁花の思い出

       岩国市  会 員   角 智之

小学1年の時、麻疹を患い、治り切らないうちに肺炎を併発し、重篤となった。隣町の医者の往診を受け、やがて回復に向かうと通院が始まった。
 ある日、歩き疲れ背負ってほしいと母を困らせた。その時、道端の薄赤色の花からよい匂いのするのが気にかかり、花の名前を聞くと「ジンチョウゲ」だった。数日後、私が興味を示したこの花を、母は近所で数本もらい、部屋の隅に立てた。これが匂うと遠いあの日と優しかった母を思い出す。 
 田舎の生家跡には梅や柿の木などに交じって沈丁花も残っている。間もなく上品な匂いを放つであろう。
   (2016.02.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

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2016年2月 2日 (火)

垢抜け宣言

      岩国市  会 員   片山 清勝

  ちょっとした外出の時に「どれを着ていこうか」、と選ぶほどの数は持ってもいないが妻に聞く。若いころから着るものにセンスが無く、無難な同系色の地味系が並んでいる。
 現役のころはよかった。職場では作業服。出張や外勤では紺やグレー系のスーツだけで迷いはなかった。
 これまでも、色柄の違う物を選んではみるが、落ち着きはなぜか地味系になっている。
 後期高齢者入りした。これを機に恥ずかしさを遠ざけ少し粋に装い、気持ちも若返らせてみよう。実行の初めは冬物バーゲンから、皆さん驚くかな。   

        (2016.02.02 毎日新聞「はがき随筆」掲載)  

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2016年2月 1日 (月)

干し大根 往時しのぶ

   岩国市   会 員   片山清勝

 山間部の盆地で、仲間と共同で野菜を育てている農園。今年初めての作業日の朝は大霜で、車を降りる時は寒さに身構えた。
 畑は凍っており作業は難しいだろうと心配したが、耕運機に助けられて順調に進み、ソラ豆やホウレンソウを植えた。
 この日、収穫したのは大根、白菜、里芋など。大根は大量にあり、夫婦二人では新鮮なうちに食べきれない量だった。妻と相談して、何十年かぶりに干し大根を作ることにした。
 小物の洗濯物を干すハンガーが空いていたので、これに輪切り大根を挟み、軒下に下げた。
 昔、わが家では干し大根は貴重な保存食品だった。母も祖母も、この季節には干し大根を作り、煮しめやまぜご飯、酢の物などにして食卓に載せた。切り干し大根は、「甘味が出る」と言ってもんでいた。
 思いつきで始めた干し大根作りだが、質素でも工夫した昔の生活の一端を思い出し、母や祖母の苦労をしのんだ。  

    (2016.02.01 中国新聞「広場」掲載)

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