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2016年7月22日 (金)

父のそろばん

    岩国市   会 員   片山清勝 

 朝刊の「こだま」に掲載された杉山恒子さんの「赤いそろばん」を拝読した。そろばんを使いながら家計簿をつける楽しみが伝わった。わが家にも小さなそろばんがあったと思い出して探すと、引き出しから13桁で五つ玉のそろばんが出てきた。玉は少しくすんでいるが滑らかに動いた。
 父は、このそろばんを使い、夕食後に自治会の会計簿を付けていた。その任期の途中、50代半ばで急逝した。使われなくなった五つ玉を、古い物として何度も片付けようとした。そのたび、父が使っていたからと捨てきれなかった。しまい込んでもう50年になる。
 自治会の会計は、20代半ばだった私か引き継いだ。初めて会計簿を開いた時、字は上手ではないが、丁寧な記帳に驚いた。やるからには同じようにと、心を決めた。高齢の会長を補佐する一員として数年間務めた。
 そろばんは苦手だったので、愛用の電卓を使った。父も電卓を使ったなら、もっと早く帳簿付けができたろう、と考えたものだ。
  「郵便貯金80億円記念」と銘がある。問い合わせると、それは昭和16年ころという。父は地方の郵便局に勤務していたので持っていても不思議はない。
 丁寧に使ったのか作りがいいのか、ゆがみもなく、玉の動きも申し分ない。長さは20センチほどだが、父の仕事ぷりを伺い残すただ一つの品になった。
 昨年、父の五十回忌を済ませた。急逝から半世紀、赤いそろばんのおかげで久しぶり日の目を見た五つ玉、父の享年を大きく超えた私に驚いただろう。
 

     (2016.07.22 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)

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