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2016年8月 2日 (火)

愚直な柱時計

  岩国市  会 員   沖 義照 

 フリーマーケットで箱の一部が欠けた、ほこりだらけの古い柱時計を見つけた。「ネジを回したら動くよ」という店主の言葉を信じて買って帰った。
 歯車の付いた機械を取り外して、ほこりを払い油を差した。 ねじを巻いてダイニングの壁にかけると、カチカチと心地よい規則正しい音を響かせた。
 時の数だけボーンボーンと音も出す。「やかましいわねぇ」との奥さんの一言で、2階の書斎で休ませておくことにした。
 ある日、柱時計を取り出して掛けてみると、数分動いたと思ったらすぐに止まってしまった。機械を取り外してはみたが、油を差す以外に何もすることができない。
 組み立てて掛けてみるが、しばらくするとやはり止まる。箱をたたいても揺すっても動かない。
 左右に振れる振り子を正面から注意深くじっと眺めていると、あることに気がついた。外箱は水準器を持ち出して垂直に掛けているのに、振り子が機械のわずかに左寄りで往復している。機械が少し斜めに傾いて取り付けられていることが分かった。
 どうしてそのようになってしまったのか理解できないまま、振り子が機械の中央で左右均等に振れるように取り付けると、止まることなくうまく動くようになった。
 ほんの少し傾いただけで、てこでも動かない。そんな愚直で不器用な柱時計が、かっての私に似ているような気がして急にいじらしく思えた。今日も2階で時を刻んでいる。
   (2013.08.02 毎日新聞「男の気持ち」掲載)

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